脊髄損傷者の加齢に伴う障害の変化

今回の報告では, 当センターを退院した高齢脊髄損傷者へのアンケートを中心に報告する予定であったが, 先の阪神・淡路大震災の復興期間中であったことを考慮し, アンケートは施行しなかった. そこで, 今回は1991年に行ったアンケート調査の結果を踏まえ, その中で50歳以上の対象者を中心に文献的考察をまじえて報告する. 高齢脊髄損傷者は, (1)受傷時は青壮年層であったがその慢性期例, (2)高齢になってからの受傷例, に分けることができる. 高齢者では“老化”という避けられない問題があり, 整形外科的および内科的に何らかの合併症を有する場合も多い. そのために, 青壮年層以下の脊髄損傷者(以下,...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in理学療法学 Vol. 23; no. 3; pp. 160 - 163
Main Authors 高田, 正三, 屋嘉, 宗浩, 細谷, 実, 神沢, 信行, 山下, 隆昭, 篠山, 潤一, 岡野, 生也, 畠, 康博
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士学会 31.05.1996
日本理学療法士協会
Japanese Society of Physical Therapy
Subjects
Online AccessGet full text
ISSN0289-3770
2189-602X
DOI10.15063/rigaku.kj00001307705

Cover

More Information
Summary:今回の報告では, 当センターを退院した高齢脊髄損傷者へのアンケートを中心に報告する予定であったが, 先の阪神・淡路大震災の復興期間中であったことを考慮し, アンケートは施行しなかった. そこで, 今回は1991年に行ったアンケート調査の結果を踏まえ, その中で50歳以上の対象者を中心に文献的考察をまじえて報告する. 高齢脊髄損傷者は, (1)受傷時は青壮年層であったがその慢性期例, (2)高齢になってからの受傷例, に分けることができる. 高齢者では“老化”という避けられない問題があり, 整形外科的および内科的に何らかの合併症を有する場合も多い. そのために, 青壮年層以下の脊髄損傷者(以下, 脊損者)に比してその最終目標を低く設定することもある. 最終獲得能力については, 損傷レベル, 麻痺の程度, 年齢, 性別, 合併症, 肥満, 拘縮または強直の有無などがその影響する因子として挙げられている. この“老化”をどのように受けとめていくかは, 脊損者および家族, そしてリハビリテーションスタッフの課題でもある. また, 日常の活動量では障害後にはその絶対的な量は減少すると考えられ, 退院後に自宅で生活する脊損者では住宅改造を行ったとしても, 入院中に比較して活動量は低下している場合が多い. そのために, 日常生活動作(以下, ADL)が自立していても, いわゆる廃用は特に高齢者では留意すべき問題と考えられる. このことは, 筋力低下, 関節拘縮の進行にも関連し, ADLにも影響する. この廃用を最小限にするためにも, 入院時より1日の生活リズムを確立して, 姿勢や動作の変化に富んだ生活全般の活性化を図り, 退院後も環境に合わせて持続することが必要と考えられる. それは, 入院時に獲得したADL能力を, 退院後にも持続してそのレベルを保つことにつながる. そのためには, 日常的に外出する機会を持ち, 高齢者で就労していない場合には機能訓練事業, デイサービス, 趣味のサークルなどの地域の事業への参加もその一手段と考えられる. ADLでは, 自宅と病院では環境が異なるために, 入院時に自立していたADLが退院後にも同様に可能とは限らないが, 逆の場合もあり得る. また, 退院後の生活ではその環境に合わせた工夫も生まれてくるために, 入院時には最良と考えられた動作・介助方法が, 退院後の自宅ではその環境に合わせた他の方法が生まれてくることも多くある. これは環境への“馴れ”と“工夫”から生まれてくるものであり, 脊損者とその家族による能動的なこのような発見は我々にとって学ぶところが多く大切にしたいことである. このようなことから, 我々は常に生活に焦点を合わせて臨床に臨むことが重要であると考える.
ISSN:0289-3770
2189-602X
DOI:10.15063/rigaku.kj00001307705