柳澤博紀発表へのコメントと議論の概要(コロキウム報告)

柳澤氏が要約しているような, すなわち, 不登校状態を学校における嫌悪事態の発生による登校行動の弱化, 学校からの回避行動, 回避行動への家庭での正の強化ととらえ, 正の強化の撤去と, 再登校行動の形成, 嫌悪事態への対処行動形成という方略は, 現在の行動療法において受け入れられているストーリーであろう. フロアからの質問・意見も, このラインにまとめられる. 例えば, 嫌子の発生について, 何がきっかけになったのか, 本児側の要因として発達障害は考えられるのか. 親が家庭で介入を実施する際に, 介入手続きの意義を十分に説明したか, 実施方法の適切性を確認したのか. 再登校に関連して, 学校と...

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Bibliographic Details
Published in行動療法研究 Vol. 34; no. 2; p. 217
Main Author 大野, 裕史
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本認知・行動療法学会 31.05.2008
日本行動療法学会
Japanese Association for Behavioral and Cognitive Therapies( JABCT )
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ISSN0910-6529
2424-2594
DOI10.24468/jjbt.34.2_217

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Summary:柳澤氏が要約しているような, すなわち, 不登校状態を学校における嫌悪事態の発生による登校行動の弱化, 学校からの回避行動, 回避行動への家庭での正の強化ととらえ, 正の強化の撤去と, 再登校行動の形成, 嫌悪事態への対処行動形成という方略は, 現在の行動療法において受け入れられているストーリーであろう. フロアからの質問・意見も, このラインにまとめられる. 例えば, 嫌子の発生について, 何がきっかけになったのか, 本児側の要因として発達障害は考えられるのか. 親が家庭で介入を実施する際に, 介入手続きの意義を十分に説明したか, 実施方法の適切性を確認したのか. 再登校に関連して, 学校との連携は行ったのか, 対処行動としては何をねらえばよかったのか, などの質問・意見があった. 【評者の考える本事例のポイント】本事例も上記のストーリーに則っていたが, この方略をいかに実施するか, という問題は残る. 誌面の都合から, 柳澤氏による要約は氏の行った介入の重要な部分が記述しきれていないように評者には思える. もう少し検討をしてみたい. 「本児の来室」予診時には, 本児と母親とが来室したが, 治療が始まってから2回は, 本児が苦しさを訴え, 無理に連れてくると自分(母親)との関係を壊してしまうとの理由で母親だけの来室であった. これに対して氏は〈嫌われても…連れてきて, 登校するように考えていくか, 嫌われたくないから今の状態でいくか〉と選択を迫った. 氏は発表時, 脅しのようになってしまったと反省しつつも, 今から思えば勝負の時だったと言っていた. 確かにリスクもあったかもしれないが, 本児と会えたことで, 使える手段が増えたと思われる. 「親の前での対応」第2セッションでの「脅し」が効いたのか, 第3セッションでは本児と父母が来室した. このとき本児は「『苦しい』と言いながら, 胸を押さえ, 机に伏せる」という, 親が登校を躊躇させる行動を示した. これに対して氏は, 訴えに対しては消去, ゆっくりした呼吸に対して注目, というDRIを父母の前で実施し, 5分ほどで本児の「楽になった」との報告を得た. この体験が, 父母にとっては介入のモデル, 本児にとっては症状のコントロール感の確信, 氏にとっては手続きの有効性の確認, となったのであろう. 「症状と本児との分離」同じく第3回目に, 本児に氏が<(苦しいから)学校も行きたくないよね>と話しかけ, 「学校には行きたい. 苦しいから行けない」との回答を得ている(引き出している?). そこから<苦しいのは勝手になる>と本児から切り離し, 苦しさに本児が立ち向かう構造を与えた. 「行動契約のきっかけ」上記の構造化の下で, <何かできることはない?>と本児に問いかけ, 「早起きならやってみる」<約束を守れない…際には, 何か我慢して欲しい>「昼間はゲームとかインターネットやめる」と, シェイピングの最初のステップ, その後のトークンエコノミーにつながる行動契約を引き出している. 「トークンエコノミーの機能」家庭で実施されたトークンエコノミーは再登校につながる行動の強化とともに, 家庭での随伴性を変える機能ももっていたであろう. これらの関わりがあったため, 冒頭の方略が実施可能であったと考える.
ISSN:0910-6529
2424-2594
DOI:10.24468/jjbt.34.2_217