テラヘルツ分光およびイメージングの生命医科学への応用

レーザー技術の進歩にともないこれまで利用が困難とされてきたテラヘルツ帯の電磁波が比較的容易に分光や計測に利用できるようになった.そのためテラヘルツ電磁波を用いたさまざまな分光と計測応用が近年活発に研究されるようになり,生体分子のテラヘルツ分光や生命医科学への応用にも注目が集まっている.本解説ではまずフェムト秒レーザーを励起源としてパルス状のテラヘルツ電磁波を発生および検出するテラヘルツ時間領域分光と呼ばれる分光手法について解説する.そしてテラヘルツ電磁波の生命医科学への応用を目指した(i)タンパク質分子のテラヘルツ分光,および (ii)癌組織のテラヘルツイメージングに関する筆者らのグループの研...

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Published in日本レーザー医学会誌 Vol. 28; no. 4; pp. 395 - 403
Main Authors 谷, 正彦, 山口, 真理子, 山本, 晃司, 江夏, 徳次郎, 北原, 英明, 萩行, 正憲, 三浦, 康宏, 澤井, 高志
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 特定非営利活動法人 日本レーザー医学会 15.01.2008
日本レーザー医学会
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Summary:レーザー技術の進歩にともないこれまで利用が困難とされてきたテラヘルツ帯の電磁波が比較的容易に分光や計測に利用できるようになった.そのためテラヘルツ電磁波を用いたさまざまな分光と計測応用が近年活発に研究されるようになり,生体分子のテラヘルツ分光や生命医科学への応用にも注目が集まっている.本解説ではまずフェムト秒レーザーを励起源としてパルス状のテラヘルツ電磁波を発生および検出するテラヘルツ時間領域分光と呼ばれる分光手法について解説する.そしてテラヘルツ電磁波の生命医科学への応用を目指した(i)タンパク質分子のテラヘルツ分光,および (ii)癌組織のテラヘルツイメージングに関する筆者らのグループの研究を紹介する. (i)タンパク質のテラヘルツ帯スペクトルは多数のモードの重なりと不均一広がりのため単調であり,タンパク質の種類や固有構造には敏感ではない.したがってテラヘルツ帯のスペクトルからタンパク質の固有構造やタンパク質の種類を判別することは困難である.しかし,スペクトルの温度や水和状態などの測定条件を変化させることでテラヘルツ帯の生体高分子のダイナミクスに関する情報を得ることができる.我々は水和したニワトリ卵白リゾチームのテラヘルツ帯スペクトルを測定し,タンパク質分子が活性を示す200K以上の温度でテラヘルツ帯の誘電損失が増大することを観測した.これはテラヘルツ帯スペクトルとタンパク質分子の活性との相関を示唆する結果である. (ii)癌組織のほうが正常組織よりもテラヘルツ帯の吸収が強いことを利用して非染色で癌組織と正常組織の検定ができる可能性が議論されている.筆者らはパラフィン固定した肝臓癌組織のテラヘルツイメージを測定し,イメージ像から癌組織部を判別できる可能性を示した.
ISSN:0288-6200
1881-1639
DOI:10.2530/jslsm.28.395