元素は友だち

「はじめに : “鉛をかじる虫”から“人に必要な元素”へ」 寺田寅彦(1878~1935). 今からおよそ100年前ころに活躍した有名な物理学者であり, 俳句や文章の達人としてよく知られている. 寅彦はとてもユニークな人物だったので, 夏目漱石は『吾輩は猫である』での水島寒月や『三四郎』での野々宮宗八のモデルとして描いている. 寅彦がある日, 鉄道大臣官房研究所を見学したとき, “鉛をかじる虫”という奇妙な虫を見せてもらった. 「顕微鏡でのぞいて見ると, ちょっと穀象のような格好をした鉛のようなねずみ色の昆虫である. これが地下電線の被覆鉛管をかじって穴を明けるので, そこから湿気が侵入して絶...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published inBIOMEDICAL RESEARCH ON TRACE ELEMENTS Vol. 26; no. 3; pp. 140 - 146
Main Author 桜井, 弘
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本微量元素学会 10.12.2015
Online AccessGet full text
ISSN0916-717X
1880-1404
DOI10.11299/brte.26.140

Cover

More Information
Summary:「はじめに : “鉛をかじる虫”から“人に必要な元素”へ」 寺田寅彦(1878~1935). 今からおよそ100年前ころに活躍した有名な物理学者であり, 俳句や文章の達人としてよく知られている. 寅彦はとてもユニークな人物だったので, 夏目漱石は『吾輩は猫である』での水島寒月や『三四郎』での野々宮宗八のモデルとして描いている. 寅彦がある日, 鉄道大臣官房研究所を見学したとき, “鉛をかじる虫”という奇妙な虫を見せてもらった. 「顕微鏡でのぞいて見ると, ちょっと穀象のような格好をした鉛のようなねずみ色の昆虫である. これが地下電線の被覆鉛管をかじって穴を明けるので, そこから湿気が侵入して絶縁が悪くなり導電の故障を起こすのだそうだ. 実に不都合な虫である. (中略)虫の口から何か特殊な液体でもだして鉛を化学的に侵食するのかと思ったが, そうではなくて, やはりほんとうに“かじる”のだそうである.
ISSN:0916-717X
1880-1404
DOI:10.11299/brte.26.140