はじめに:風力発電を取り巻く状況と風車騒音の影響

わが国の風力発電施設は2000年前後より急増傾向にあり, 2016年度時点の設置基数は2,203基で設備容量は3.36GWに達している. 原発事故問題や地球温暖化対策のため再生可能エネルギー利用への国民の関心は高く, 政府も2014年に2030年に向けたエネルギーミックスを決定し, 原発をベースロード電源としつつも, 再生可能エネルギーが日本の電源の中核を担う電源のひとつと位置づけられている. 風力発電施設による発電量は, 全体に占める割合が0.55%と極めて低いが, その導入量は着実に増加しており, 2030年には現在の3倍程度の発電量になると予測されている. その一方で, 風力発電施設の導...

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Published in日本衛生学雑誌 Vol. 73; no. 3; p. 277
Main Authors 石竹, 達也, 原, 邦夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人日本衛生学会 2018
日本衛生学会
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Summary:わが国の風力発電施設は2000年前後より急増傾向にあり, 2016年度時点の設置基数は2,203基で設備容量は3.36GWに達している. 原発事故問題や地球温暖化対策のため再生可能エネルギー利用への国民の関心は高く, 政府も2014年に2030年に向けたエネルギーミックスを決定し, 原発をベースロード電源としつつも, 再生可能エネルギーが日本の電源の中核を担う電源のひとつと位置づけられている. 風力発電施設による発電量は, 全体に占める割合が0.55%と極めて低いが, その導入量は着実に増加しており, 2030年には現在の3倍程度の発電量になると予測されている. その一方で, 風力発電施設の導入地区に居住する住民から低周波音に係わる苦情や, 睡眠障害, 頭痛, 耳鳴り, 耳閉感, めまい, 吐気, イライラ, 集中力・記憶力の異常などの症状を呈する風車症候群の発症リスクへの不安が高まっている. しかし, 風車騒音の健康影響に関する科学的エビデンスはいまだ十分とはいえない. 風車騒音の測定・評価についても, 交通騒音問題に比べると歴史は浅く, 居住地域における風車騒音の測定方法や評価基準は, 最近になって「風車騒音に関する指針値(2016年)」や「風車騒音の測定マニュアル(2017年)」が環境省から出されるなど, 行政レベルの理解や住民への周知も十分ではない状況にある. また, 風力発電施設の導入に関連しては, 風力発電事業が2010年の中央環境審議会で環境影響評価法の対象事業とされ, 2012年から環境影響評価が義務化された. これまでの環境影響評価とは違って, 計画段階環境配慮書手続(配慮書手続)や環境保全措置等の結果の報告・公表手続(報告書手続)などが導入された. このような風力発電を取り巻く背景をもとに, 第87回日本衛生学会学術総会(宮崎)において, シンポジウムのタイトルを「わが国の風力発電と居住環境および健康にかかわる諸問題」として4名の演者を招聘した. 各シンポジストのテーマは, 「欧州と我が国の風力発電導の現状」, 「風力発電施設の環境影響評価法」, 「居住地域における風車騒音の曝露状況の現状」, 「風力発電施設による超低周波音・騒音の健康影響に関する疫学調査」であった. 本ミニ特集では, 各演者に講演内容を中心とする論文の寄稿を依頼した. このミニ特集が読者の方々にとって, 風力発電を取り巻く諸問題と周辺住民への健康影響についての理解の一助となれば幸いである.
ISSN:0021-5082
1882-6482
DOI:10.1265/jjh.73.277