地域医療からみた「知の循環」

新臨床研修制度がはじまり, 日本の地域医療の崩壊が顕在化して以来, すでに約8年が過ぎようとしている. 私事ではあるが, 2012年9月より, 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科学教室を主宰することとなり, 新潟県における地域医療の現状を目の当たりにすることとなった. 大半の国立大学法人と同様に, 大学病院で研修する卒業生の数は少なく, 医学部の教育部門においても, 卒業生が後期研修後, どのようなポジションで医療に従事しているかを把握していない状態であると聞く. 後期研修後大学へ戻ってきた医師たちからの伝聞によると, 8年を経過した今も首都圏の市中病院において目標のないままに過ごしてい...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published inShinzo Vol. 45; no. 8; p. 951
Main Author 南野, 徹
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 日本心臓財団 2013
日本心臓財団・日本循環器学会
Japan Heart Foundation
Online AccessGet full text
ISSN0586-4488
2186-3016
DOI10.11281/shinzo.45.951

Cover

More Information
Summary:新臨床研修制度がはじまり, 日本の地域医療の崩壊が顕在化して以来, すでに約8年が過ぎようとしている. 私事ではあるが, 2012年9月より, 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科学教室を主宰することとなり, 新潟県における地域医療の現状を目の当たりにすることとなった. 大半の国立大学法人と同様に, 大学病院で研修する卒業生の数は少なく, 医学部の教育部門においても, 卒業生が後期研修後, どのようなポジションで医療に従事しているかを把握していない状態であると聞く. 後期研修後大学へ戻ってきた医師たちからの伝聞によると, 8年を経過した今も首都圏の市中病院において目標のないままに過ごしている医師も多いという. 真実であれば, 大変嘆かわしい実態である. 米国において, 基礎医学研究の大半は, 実際臨床に携わったことのない研究者が行っている. 一方, 日本においては, 臨床を経験した医師が, 実際の症例を通じて感じた問題点や疑問点を起点として, 基礎的な検証やその成果を応用するトランスレーショナル研究さらに臨床研究へと発展させ, そこから得られた臨床データを基礎的な研究にフィードバックするという「知の循環」を実践し得る環境がある. このようなわが国特有の環境が, 今後展開されていく米国式の臨床研修制度や専門医制度の確立によって, 破壊されていくのではないかと私は危惧している. このような「知の循環」に限られた期間でも携わった医師は, それを経験したことのない医師と比較すると, 医療人としての厚みや持っている哲学に違いを感じることが多い. このような意味で, 現在も市中を漂流している医師たちの将来について憂慮の念を持たざるを得ない. このような悲観的な情報があふれる中で, 新潟県の地域医療は, 私が想定していたものより遥かに良質であった. 新潟県内において医師不足であることは否めないが, 県や大学, 関連の病院施設が一体となり, その解決に向かって行っている努力の賜物であると思う. われわれの関連分野(循環器内科)以外も含めてすべての分野を把握しているわけではないが, 県内の医療レベルは極めて高い. 「知の循環」を経験している医師が多いためか, 県内で開催される研究会での議論も良質であると思う. さらに特筆すべきは, 医学部学生の質の高さである. 先日私が東京で開催した研究会に学生たちを参加させたところ, ハエの基礎研究者に対して大変レベルの高い質問を浴びせていた. さらに最近開催した循環器内科の勉強会では, 医学部学生・研修医あわせて50名以上が参加し, 当科のセミナー講師を相手に活発な議論を繰り広げていた. 現在「知の循環」を実践できるのは, むしろ地域医療の現場なのかもしれないという期待を抱いている.
ISSN:0586-4488
2186-3016
DOI:10.11281/shinzo.45.951