シンポジウム8 認知症研究の新展開 司会の言葉
Alzheimer 病(AD)の最も重要な病態はAβアミロイド沈着(Aβ amyloidosis)と引き続いて誘発される広範なリン酸化tau蓄積・神経原線維変化形性(Tauopathy)であり, 最終的に神経細胞死をもたらして認知症を発症する. Aβ amyloidosis の研究では 1) プレセニリンを主体とするγセクレターゼ複合体によるAβの生成とAPOEやネプリライシンによる輸送・代謝機序, 2) 原因遺伝子変異とAβ42増加, 3) 可溶性 Aβ oligomer によるシナプス障害などのそれぞれの機序が明らかにされ, ADNI, DIAN研究による神経心理学的検査, amyloid...
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Published in | 神経治療学 Vol. 33; no. 3; p. 414 |
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Main Authors | , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本神経治療学会
2016
Japanese Society of Neurological Therapeutics |
Online Access | Get full text |
ISSN | 0916-8443 2189-7824 |
DOI | 10.15082/jsnt.33.3_414 |
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Summary: | Alzheimer 病(AD)の最も重要な病態はAβアミロイド沈着(Aβ amyloidosis)と引き続いて誘発される広範なリン酸化tau蓄積・神経原線維変化形性(Tauopathy)であり, 最終的に神経細胞死をもたらして認知症を発症する. Aβ amyloidosis の研究では 1) プレセニリンを主体とするγセクレターゼ複合体によるAβの生成とAPOEやネプリライシンによる輸送・代謝機序, 2) 原因遺伝子変異とAβ42増加, 3) 可溶性 Aβ oligomer によるシナプス障害などのそれぞれの機序が明らかにされ, ADNI, DIAN研究による神経心理学的検査, amyloid PET や CSF biomarker の世界標準化が行われている. Aβ amyloidosis は20数年前から開始し, Tauopthy が加り, 最終的に認知症が発症する自然経過も人で明らかにされている. しかし, これらの知見をもとに活発に開発されている病態修飾薬の臨床使用は第3相グローバル治験の手前で足踏み状態である. 本シンポジウムはこの様な状況のもとで, まず, 河村病院神経内科の田平武先生から, 病態修飾薬としての Aβ amyloidosis をターゲットとした免疫療法のレビューが行われ, 第3相, 第2相にある各抗Aβモノクローナル抗体の治験の現状と問題点について紹介された. 東京大学大学院薬学研究科の富田泰輔先生は, γセクレターゼの3次元構造と複合体各分子の役割, γセクレターゼ活性と構造変化など最近の研究成果を紹介された. また, Aβ amyloidosis を対象としたγセクレターゼモジュレーター(GSM)の開発の現状にも言及され, 今後の可能性を述べられた. 長崎大学大学院薬学系ゲノム創薬分野の岩田修永先生はAβの生理的分解酵素としてのネプリライシン研究の現状について紹介され, 脳内ネプリライシン活性を増強する化合物をスクリーニングし, 有望な候補としてカテキンなどのポリフェノールを見いだしていることを明らかにした. 最後に, 大阪市立大学大学院脳神経科学の冨山貴美先生は Tauopathy の克服に向けて, 自身の教室で確立されたモデルマウスを紹介すると共にPSer413Tauに対するモノクローナル抗体を確立し, モデルマウスに投与したところ行動障害が改善する事を明らかにし, Tauopathy 治療に向けての展望を示された. いずれも, 日本を代表する研究者の先端の知見が紹介された極めて興味深いシンポジウムとなった. 今後の病態修飾薬開発に向けて日本からの発信が期待できる有意義な内容であった. |
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ISSN: | 0916-8443 2189-7824 |
DOI: | 10.15082/jsnt.33.3_414 |