異種移植の現況

臓器移植を歴史的に振り返ると,動物からヒトへの異種移植が,ヒトからヒトへの同種移植に先行して,1900年代には既に試みられている.脳死の定義ができるまでは同種移植は心停止ドナーあるいは生体ドナー以外になかったので,1960年代に主にconcordant系の動物である霊長類からヒトへの異種移植が実施されたが成功例はなかった.脳死移植が進み,一時期異種移植は臨床で行われなくなったが,異種移植における拒絶反応の機序が明らかとなったことと,発生工学手法の核移植が可能となったことから,異種移植用のブタの開発がブームとなった.しかし,当時は複数の遺伝子改変ができなかったため,ブームは数年で終わった.その後...

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Bibliographic Details
Published inOrgan Biology Vol. 30; no. 1; pp. 015 - 027
Main Author 福嶌, 教偉
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本臓器保存生物医学会 2023
日本臓器保存生物医学会
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ISSN1340-5152
2188-0204
DOI10.11378/organbio.30.015

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Summary:臓器移植を歴史的に振り返ると,動物からヒトへの異種移植が,ヒトからヒトへの同種移植に先行して,1900年代には既に試みられている.脳死の定義ができるまでは同種移植は心停止ドナーあるいは生体ドナー以外になかったので,1960年代に主にconcordant系の動物である霊長類からヒトへの異種移植が実施されたが成功例はなかった.脳死移植が進み,一時期異種移植は臨床で行われなくなったが,異種移植における拒絶反応の機序が明らかとなったことと,発生工学手法の核移植が可能となったことから,異種移植用のブタの開発がブームとなった.しかし,当時は複数の遺伝子改変ができなかったため,ブームは数年で終わった.その後,複数遺伝子の改変法が開発され,ブタから霊長類への同所性心臓移植の長期生存例が報告されるようになり,2022年1月ブタからヒトへの遺伝子改変ブタの心臓移植が実施された.ここでは,異種移植の歴史を振り返りながら,筆者の霊長類を用いた異種移植の研究経験を紹介しながら,今回の事例について考察する.
ISSN:1340-5152
2188-0204
DOI:10.11378/organbio.30.015