口腔腫瘍患者の顎顏面補綴処置
顎顔面補綴とは, 「腫瘍, 外傷, 炎症, 先天奇形などが原因で, 顎骨とその周囲組織に生じた欠損に対し, 非観血的に, あるいは手術との併用により人工物で補填修復し, 失われた機能と形態の回復を図ること. その処置部位により, 顎補綴と顔面補綴とに大別される. 」と定義されている. 即ち, その根幹は人工物を利用した修復処置と多分野からなるteam approachにある. 演者らも古くよりこの分野に興味を持ち, 臨床試験も既に1,000症例を超えてはいるが, この種の患者の補綴処置に関する諸条件は極端に不利であり, 現在でも条件の劣悪な症例に直面するたびに, 途方に暮れるのが現状である....
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Published in | 日本口腔腫瘍学会誌 Vol. 12; no. 3; p. 74 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
2000
日本口腔腫瘍学会 |
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ISSN | 0915-5988 1884-4995 |
DOI | 10.5843/jsot.12.74 |
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Summary: | 顎顔面補綴とは, 「腫瘍, 外傷, 炎症, 先天奇形などが原因で, 顎骨とその周囲組織に生じた欠損に対し, 非観血的に, あるいは手術との併用により人工物で補填修復し, 失われた機能と形態の回復を図ること. その処置部位により, 顎補綴と顔面補綴とに大別される. 」と定義されている. 即ち, その根幹は人工物を利用した修復処置と多分野からなるteam approachにある. 演者らも古くよりこの分野に興味を持ち, 臨床試験も既に1,000症例を超えてはいるが, この種の患者の補綴処置に関する諸条件は極端に不利であり, 現在でも条件の劣悪な症例に直面するたびに, 途方に暮れるのが現状である. 口腔, 顔面部に欠損や機能障害を後遺する原疾患は, 上記の様に基本的には多様であるが, 我々の臨床実績から見ると, 腫瘍に関係するものが全症例のおよそ半分を占めている. それらの患者においては, 腫瘍摘出が惹起する口腔内あるいは顔面の実質欠損や変形等が補綴治療の対象となるが, 具体的には, 欠損に基づく漏洩に因る発音障害や口腔乾燥, 咬合不全から来る咀嚼障害, 高度な醜形等に対処することになる. 主として硬組織の欠損を対象とする通常の補綴治療と異なり, 可動性や被圧変位を伴う軟組織まで含めて人工物で修復することには, 自ずから限界が有るが, 外科的修復や再建処置を適用しえない症例においては, 選択の余地はない. 今回は口腔外科專門医と補綴専門医を中心として運営されてきた, 20年に及ぶ日本顎顔面補綴研究会および日本顎顔面補綴学会における学術活動の成果の概要を紹介し, 加えて, 顎顔面補綴治療の実態を紹介する意味で, これまで演者ら自身が製作して来た各種補綴物を, 欠損の部位や程度別に供覧したい. 腫瘍患者に適用される補綴物の主体は義歯に準じた形態と機能を備えた顎義歯であるが, 最近では手術直後に適用されることも多くなった. 顎義歯装着による機能回復のレベルは, 通常の義歯のそれに比べればまだまだ不十分な点も少なくないが, それでも術後の患者の重篤な障害や苦痛を軽減することに関する価値は大きい. この分野では古くから, better than nothingと言う妥協もあるが, 今後は通常の義歯とは別途な評価の指標が必要であろう. しかし, 条件が悪いとは言え, 顎補綴治療の基本は従来から通常の補綴治療で培われてきた一種の手順を丹念に遂行するしかない. 補綴専門医の立場からみた手術担当者への注文事項も列挙したい. 即ち, それらは小口症や開口障害に代表されるが, 後に続く治療に対する配慮に欠けた安易な切除手術や再建手術により, 我々の行う補綴処置の治療効果を著しく妨げる各種問題点である. 欠損が顔表面に及んだ場合にはエピテーゼが適用されるが, その根本的な評価については未だ不明瞭なものがあり, 臨床的な適応症も限られている. しかし, 眼窩部の欠損のように, 代替処置の見当たらない症例においては, 不可欠な治療法と言える. |
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ISSN: | 0915-5988 1884-4995 |
DOI: | 10.5843/jsot.12.74 |