発作性心房細動に対するカテーテルアブレーション後に生じた,上腸間膜動脈症候群の1例

症例は61歳男性.身長168 cm,体重56 kg,腹部疾患の既往.薬剤抵抗性の発作性心房細動に対してカテーテルアブレーションを実施.肺静脈隔離術と下大静脈─三尖弁間峡部のブロックライン形成を行った.肺静脈隔離術中は食道温度センサーを用いて食道内温度をリアルタイムに計測し,食道内温度が40℃以上になれば通電を中止した.アブレーション終了翌々日の昼頃(アブレーション終了後約48時間)から,吐気と腹部膨満感が出現した.その後も腹部症状は次第に増強,夕刻には激しい上腹部痛が出現した.上腹部は緊満して突出し,触診では腹部は硬,聴診ではグル音の低下を認めた.造影CT検査では腹部動脈に塞栓症を疑わせる血栓...

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Published in心臓 Vol. 51; no. 1; pp. 87 - 96
Main Authors 井ノ口, 安紀, 北川, 直孝, 勝田, 省嗣, 賀来, 文治
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 日本心臓財団 15.01.2019
日本心臓財団・日本循環器学会
Subjects
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ISSN0586-4488
2186-3016
DOI10.11281/shinzo.51.87

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Summary:症例は61歳男性.身長168 cm,体重56 kg,腹部疾患の既往.薬剤抵抗性の発作性心房細動に対してカテーテルアブレーションを実施.肺静脈隔離術と下大静脈─三尖弁間峡部のブロックライン形成を行った.肺静脈隔離術中は食道温度センサーを用いて食道内温度をリアルタイムに計測し,食道内温度が40℃以上になれば通電を中止した.アブレーション終了翌々日の昼頃(アブレーション終了後約48時間)から,吐気と腹部膨満感が出現した.その後も腹部症状は次第に増強,夕刻には激しい上腹部痛が出現した.上腹部は緊満して突出し,触診では腹部は硬,聴診ではグル音の低下を認めた.造影CT検査では腹部動脈に塞栓症を疑わせる血栓像や胃幽門部に狭窄を疑わせる所見を認めなかった.胃と十二指腸の第2部までは著明に拡張して大量の内容物が貯留していた.これに対し,上腸間膜動脈と腹部大動脈との間で圧迫された十二指腸第3部に狭窄を認めるとともに,それ以降の腸管は虚脱ぎみとなり腸内容物が目立たなかった.これらの画像所見より上腸間膜動脈症候群と診断した.経鼻胃管挿入によるドレナージ施行により減圧をはかったところ,腹痛と嘔気はすみやかに改善し,2日間の絶食,補液の後に食事の再開を行った.さらに,再発予防のために,食事回数を1日4-5回に増やして分割とし,1回の食事量は少なめとした.加えて,食後の体位指導を行い,これらの生活指導により,以後,腹部症状の再燃を認めていない. 上腸間膜動脈症候群は,十二指腸第3部が,上腸間膜動脈と腹部大動脈との間で圧迫され,高位閉塞症状を呈する稀な疾患であるとされる.急激に発症し,激しい胆汁性嘔吐と胃拡張,腹痛,脱水,電解質質異常などを呈するのみならず,診断が遅れると胃壊死や胃破裂が生じて重篤化することもあるとされる.心房細動に対するカテーテルアブレーションの心外性の合併症の1つとして生じる,胃食道神経障害の病態として,上腸間膜動脈症候群も念頭に置くことは大切であると思われる.
ISSN:0586-4488
2186-3016
DOI:10.11281/shinzo.51.87