がんゲノム医療と抗がん薬選択

がんは、正常細胞の遺伝子の異常が積み重なって発症する。1990 年代に 分子生物学が急速に進歩し、各臓器のがんに特徴的な遺伝子の異常が分かっ てきた。また、同じ臓器のがんでも、患者によって異常の認められる遺伝子の種 類が異なることも分かってきた。さらに、がんの発生・進展や生存に強く関わるド ライバー遺伝子の異常をもつ患者が存在し、その遺伝子産物の活性を抑える分 子標的薬が高い治療効果を示す場合があることが報告された。特に肺腺癌で は EGFR や ALK の遺伝子変異に対する分子標的薬の高い有効性が報告され、 これらの遺伝子変異に基づく個別化治療が実施されるようになった。新たなドライバー遺伝子...

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Published inThe Nursing Pharmacology Conference Vol. 2019.2; p. ES-1
Main Author 木下, 一郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本薬理学会 2019
Japanese Pharmacological Society
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ISSN2435-8460
DOI10.34597/npc.2019.2.0_ES-1

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Summary:がんは、正常細胞の遺伝子の異常が積み重なって発症する。1990 年代に 分子生物学が急速に進歩し、各臓器のがんに特徴的な遺伝子の異常が分かっ てきた。また、同じ臓器のがんでも、患者によって異常の認められる遺伝子の種 類が異なることも分かってきた。さらに、がんの発生・進展や生存に強く関わるド ライバー遺伝子の異常をもつ患者が存在し、その遺伝子産物の活性を抑える分 子標的薬が高い治療効果を示す場合があることが報告された。特に肺腺癌で は EGFR や ALK の遺伝子変異に対する分子標的薬の高い有効性が報告され、 これらの遺伝子変異に基づく個別化治療が実施されるようになった。新たなドライバー遺伝子の発見が期待されるなか、次世代シークエンサーが 登場し、一度に多数の遺伝子の変化を調べるプロファイル機能をもつがん遺伝 子パネル検査が開発された。これを契機として、がん細胞のゲノム情報を調べ て、より効率的・効果的な精密医療を行う「がんゲノム医療」が始まった。これ らを利用した LC-SCRUM-Japan 等のプロジェクトによって、肺腺癌では ROS1、 BRAF、RET、MET や HER2 等のドライバー遺伝子の異常に対する分子標 的薬の治験が行われ、現在までに ROS1とBRAF の分子標的薬が承認された。 肺癌以外の癌でもこのようなドライバー遺伝子の異常は発見され、対応する分 子標的薬が承認されている。さらに、がん種を超えて治療が有効なドライバー遺 伝子変異も発見され、NTRK 融合遺伝子に対応する分子標的薬は、がん種 限定の承認を得た。2 種類のプロファイル目的のがん遺伝子パネル検査が、2018 年 12 月に製造 販売承認され、2019 年 6 月に保険適用となった。現時点で適用となる患者は、 標準的な治療が終了となった固形がん患者や、標準的な治療の乏しい希少が んや原発不明がんである。有効な薬剤がない患者に、がんゲノム検査を行うこ とによって、効果の期待できる薬剤が見つかる可能性がある。一方、見つかっ た薬剤は、未承認や適応外であることが多い。当院を含め、現在までの国内の データでは、薬剤の奏効性が期待できる遺伝子異常があった患者が約半数で、 対応する薬剤の治療を受けた患者は約 10-15% である。今後、治験や患者申 出療養制度を利用した臨床試験を推進し、検査で見つかった薬剤で治療できる 患者を増やすことが重要である。
Bibliography:2019.2_ES-1
ISSN:2435-8460
DOI:10.34597/npc.2019.2.0_ES-1