難治性疼痛に対し運動イメージプログラムが効果的であった1例

【はじめに】骨折後などの長期間の患肢の不動により,感覚入力や運動出力が減少し,対応する一次体性感覚野と運動野における体部位再現の狭小化を生じることが明らかになっている.体部位再現の狭小化は,身体や運動イメージの歪みを引き起こし,難治性疼痛の要因の一つとされている.近年,このような難治性疼痛に対して,運動イメージプログラム(Motor Imagery Program:以下MIP)による身体・運動イメージの修正が効果的であると注目されている.今回,橈骨遠位端骨折後に複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)type1の症例に対しMIPを導入し,疼痛軽減や患者の希望であった調理動作獲得までの経過を報告する...

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Published inKyushu physical therapist Congress Vol. 2019; p. 42
Main Authors 宮上, 拓也, 堀田, 法行, 小泉, 徹児, 清水, 章宏, 辻本, 律
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2019
Kyushu Physical Therapy Association
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2019.0_42

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Summary:【はじめに】骨折後などの長期間の患肢の不動により,感覚入力や運動出力が減少し,対応する一次体性感覚野と運動野における体部位再現の狭小化を生じることが明らかになっている.体部位再現の狭小化は,身体や運動イメージの歪みを引き起こし,難治性疼痛の要因の一つとされている.近年,このような難治性疼痛に対して,運動イメージプログラム(Motor Imagery Program:以下MIP)による身体・運動イメージの修正が効果的であると注目されている.今回,橈骨遠位端骨折後に複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)type1の症例に対しMIPを導入し,疼痛軽減や患者の希望であった調理動作獲得までの経過を報告する.【症例紹介】40歳代女性.右利き.診断名:左橈骨遠位端骨折.X日に転倒受傷しA病院を受診.徒手整復後に骨折部の大きな転位が残存するも,患者の希望でギプスシーネによる保存的治療が選択され,X+29日にB病院で外来リハを開始.X+47日に当院初診.手指手関節の可動域制限(不動),著明な疼痛,浮腫,発汗亢進,Xp検査で骨萎縮がみられCRPS type1と診断.X+50日より当院で週3回の外来リハを開始.【PT評価(介入時)】疼痛評価:部位;前腕遠位1/3より末梢,Visual Analogue Scale(以下VAS);安静時41mm/77mm,Pain Catastrophizing Scale(以下PCS);15点,Hospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS);不安7点/抑うつ10点.感覚検査:触覚は過敏で部位識別困難,運動範囲の錯覚あり.Tip to Palm Distance(以下TPD):5cm,手指対立不可.握力:測定不可.左手の機能低下は著しく,調理の際に食材が固定できないという訴えあり.【PTプログラムの経過】交代浴や徒手療法を開始したが介入10日目の再評価でほとんど改善が見られず,MIPを導入.初めに左右認知課題(差し出された手の即時回答)を開始し,介入17日目より運動イメージ課題(手指のポーズの模倣)を行い,24日目よりMirror therapy(鏡越しの手指の複合運動)を実施した.介入30日目に手指の自動運動が見られ自主運動が可能.介入55日目に左手を使用しての調理が可能になる.【最終評価(介入55日目)】疼痛評価:VAS;安静時18mm/動作時34mm,PCS;13点,HADS;不安6点/抑うつ7点.感覚検査:触覚の部位識別可能,左手で模倣可能.TPD:3cm,手指対立可.握力:0.8kg.調理時に食材を固定する補助手として活用が可能.【考察】本症例は骨折後の侵害受容性疼痛と不活動性疼痛に加え,受傷後約1ヶ月の不動による運動イメージの歪みが,機能やADLに影響を及ぼしていると考え,MIPを導入した. MIPで段階的に大脳皮質領域を賦活し運動イメージを修正させる治療を行うことにより徐々に疼痛軽減がみられ,ADLの向上に繋がったと考えられる.今後は,CRPS type1の治療において通法の理学療法の介入と並行してMIPを導入することで難治性疼痛の改善に奏功することが示唆された. 【倫理的配慮,説明と同意】本報告はヘルシンキ宣言に基づいており,対象者に十分な説明を行い,同意を得た.
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2019.0_42