肘伸展型の肩装具が筋緊張の異なる脳卒中片麻痺患者の歩行対称性に及ぼす影響

【はじめに】脳卒中片麻痺者は歩行時に左右非対称な歩容を呈することが多く、その理由の一つとして麻痺側の腕振りの減少が考えられる。また、Hwang らは、亜脱臼の整復を目的とした肘屈曲型の装具と肘伸展型の装具が歩行に及ぼす影響を調査し、肘伸展型のほうが水平面における骨盤回旋角度が増大したことを報告していることから、肘伸展型の装具は亜脱臼を整復するとともに、両上肢長が均等となることにより偶力を得やすい利点があると考えられる。しかしながら、脳卒中片麻痺者は麻痺側上肢に異常筋緊張を呈することも多いため、その程度によっては歩行に及ぼす効果が異なる可能性も考えられる。そこで今回、亜脱臼を有し、上肢の筋緊張が...

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Published inKyushu physical therapist Congress Vol. 2022; p. 140
Main Authors 玉利, 誠, 脇坂, 成重, 朝田, 雄介, 冨田, 誠, 田代, 耕一, 久保田, 勝徳
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2022
Kyushu Physical Therapy Association
Subjects
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2022.0_140

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Summary:【はじめに】脳卒中片麻痺者は歩行時に左右非対称な歩容を呈することが多く、その理由の一つとして麻痺側の腕振りの減少が考えられる。また、Hwang らは、亜脱臼の整復を目的とした肘屈曲型の装具と肘伸展型の装具が歩行に及ぼす影響を調査し、肘伸展型のほうが水平面における骨盤回旋角度が増大したことを報告していることから、肘伸展型の装具は亜脱臼を整復するとともに、両上肢長が均等となることにより偶力を得やすい利点があると考えられる。しかしながら、脳卒中片麻痺者は麻痺側上肢に異常筋緊張を呈することも多いため、その程度によっては歩行に及ぼす効果が異なる可能性も考えられる。そこで今回、亜脱臼を有し、上肢の筋緊張が異なる脳卒中患者2 症例を対象に、Ring Shoulder Brace(アドバンフィット社製、以下RSB)装着時の歩行を3 軸加速度計にて計測し、歩行対称性に及ぼす影響について検討した。【方法】症例1は右前頭葉の脳梗塞により左片麻痺を呈した50歳代女性で、Brunnstrom Recovery Stage(以下:BRS)Ⅱ- Ⅲ- Ⅴ、Modified Ashworth Scale(以下:MAS)上腕二頭筋0 であり、独歩監視レベルであった。症例2 は右放線冠ラクナ梗塞により左片麻痺を呈した70 歳代男性で、BRS ⅢⅡ- Ⅳ、MAS 上腕二頭筋1+ であり、独歩自立レベルであった。両名の第3 腰椎に3 軸加速度計(住友電気工業株式会社製)をベルトで固定し、RSB 非装着時と装着時の10 m至適速度歩行を各2 回計測した。計測後、歩行時間と歩数の平均値を算出するとともに、5 歩行周期の重心加速度(左右・上下・前後)を抽出し、対称性を意味するSimilarity Index(以下:SI 値)を算出した。また、SI 値は半歩行周期を50% とし、立脚初期(以下:IC)~荷重応答期(以下:LR)を0% ~12%、LR ~立脚中期(以下:MSt)を12% ~31%、MSt ~立脚終期を31%~50%と規定し、分析を行った。【結果】歩行時間(非装着時・装着時)は、症例1:11.3 秒・10.2 秒、症例2:14.5 秒・13.6 秒、歩数は、症例1:20 歩・19 歩、症例2:24 歩・23 歩であり、RSB 装着時に歩行時間の短縮と歩数の減少が認められた。次に、立脚期全体の左右方向のSI 値(非装着時・装着時)は、症例1:0.76・0.85、症例2:0.74・0.73 であり、上下方向のSI 値は、症例1:0.88・0.94、症例2:0.90・0.91、前後方向のSI 値は、症例1:0.87・0.95、症例2:0.83・0.83であった。また、症例1 では特にIC ~LR における前後方向のSI 値(0.66・0.89)とLR ~MSt における左右方向のSI 値(0.71・0.91)に変化が認められたが、症例2 では左右・上下・前後方向いずれのSI 値にも大きな変化は認められなかった。【考察】亜脱臼を有する脳卒中片麻痺者は、肩装具を装着することで亜脱臼が整復されるとともに、体幹のアライメントや歩行速度が改善することが知られている。本研究においても、RSB 装着時に歩行時間の短縮が認められたことから、亜脱臼を整復することにより、上肢の筋緊張の程度に関わらず歩行時間が短縮する可能性が示唆された。その一方で、症例1 は歩行時に麻痺側の腕振りが観察されたものの、症例2 は麻痺側の腕振りが観察されなかった。歩行時の腕振りは体幹の回旋運動に拮抗する回転モーメントを生成し、過度な重心動揺の制御に寄与することが知られている。本研究においても、麻痺側上肢が低緊張である症例1 において、IC ~LR における前後方向とLR ~MSt における左右方向のSI 値の改善が認められたことから、歩行時にRSB を装着し、麻痺側肘関節を伸展位に保持した腕振りが可能となることにより、両上肢の偶力によって体幹−骨盤間に拮抗する回転モーメントが生成され、歩行の対称性が改善する可能性が示唆された。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、当院の倫理委員会にて承認(2020052501)を受け実施した。
Bibliography:P-68
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2022.0_140