人工股関節全置換術施行後に生じた自覚的脚長差の改善を図り, 歩容改善に繋げることを目的に理学療法を行った一例

【はじめに】一般に, 変形性股関節症により人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA) を施行した場合, 術前の脚長差の改善, 股関節外側組織の緊張を高め, 脱臼リスクの軽減を図る目的で脚延長を行うことが多い. しかし, 脚延長に伴い,自覚的脚長差が生じ, 歩行などの動作に支障を来す症例も散見される. そこで,自覚的脚長差に着目し, 歩容改善に繋げようとした症例について考察を加えて報告する.【症例提示】50 歳代後半の女性で, 身長158.3cm, 体重57.7kg(BMI23.0). 以前, 右変形性股関節症の診断を受けており,1 年前から右股関節痛が増強. 仕...

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Published inKyushu physical therapist Congress Vol. 2021; p. 120
Main Authors 長谷川, 隆史, 西山, 裕太, 小無田, 彰仁
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2021
Kyushu Physical Therapy Association
Subjects
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2021.0_120

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Summary:【はじめに】一般に, 変形性股関節症により人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA) を施行した場合, 術前の脚長差の改善, 股関節外側組織の緊張を高め, 脱臼リスクの軽減を図る目的で脚延長を行うことが多い. しかし, 脚延長に伴い,自覚的脚長差が生じ, 歩行などの動作に支障を来す症例も散見される. そこで,自覚的脚長差に着目し, 歩容改善に繋げようとした症例について考察を加えて報告する.【症例提示】50 歳代後半の女性で, 身長158.3cm, 体重57.7kg(BMI23.0). 以前, 右変形性股関節症の診断を受けており,1 年前から右股関節痛が増強. 仕事に支障を来し始めたため,A 病院受診. 手術目的で当院へ入院となる. 術式は右人工股関節全置換術で, 後方MIS アプローチにて施術された.【理学療法初期評価】痛みに関して, 安静時に時折NRS6 の痛みが殿部に出現した. 動作時の痛みは,背臥位で股関節屈曲方向への自動運動を行った際にNRS8 の痛みが殿部に出現した. 他動運動でも痛みが出現したが, 自動運動における痛みの方が強かった. また, 安静時痛, 動作時痛ともに, うずくような痛みと言われていた.HADSは23 点( 不安5 点/ 抑うつ18 点),PCS は18 点( 反芻15 点/ 無力感3 点/拡大視0 点),TSK は34 点,PSEQ は37 点であった. 関節可動域( 以下,ROM)は右股関節屈曲30° , 外転20° , 内転-20° , 右膝関節屈曲90° , 伸展-15°であった. 筋力( 以下,MMT) は右股関節屈曲2, 外転2, 外旋2, 右膝関節伸展2右足関節背屈5 であった. 右股関節伸展, 外旋ROM, 右股関節伸展MMT は初期評価時には評価困難であった. 自覚的脚長差に関して, 右側が4.3cm 長いと感じられていた. 棘下長( 以下,SMD) は右側84.0cm, 左側.84.5cm であった.【理学療法プログラム】(1)リラクゼーション(2)関節可動域運動(3)基本動作練習(4)筋の再教育(5)骨盤アライメント矯正【理学療法最終評価】痛みに関して, 安静時痛は消失しており, 動作時の痛みは, 歩行時・外旋運動時に時折NRS3 の痛みが出現した. また, 動作開始時に生じやすく,HADS は13 点( 不安5 点/ 抑うつ8 点),PCS は11 点( 反芻6 点/ 無力感4 点/ 拡大視1 点),TSK は32 点,PSEQ は42 点であった.ROM は右股関節屈曲100° , 外転25° , 内転10° , 外旋30° , 右膝関節屈曲140° , 伸展-5°であった.MMTは右股関節屈曲4, 外転4, 外旋3, 伸展3, 大殿筋3, 膝関節伸展5, 足関節背屈5であった. 自覚的な脚長差は, 右脚が1.1cm 長いと感じられていた.SMD は右側84.0cm, 左側84.5cm であった.【考察】本症例は変形性股関節症による強い痛みや不安感から, 術前の2 か月間は活動量が著しく減少し, 足を引きずって歩いていた. そのため, 右側の骨盤下制や,後傾位などのアライメント不良を呈していた. 自覚的脚長差には骨盤側方傾斜角( 以下, 側傾角)・股関節内転角度が関与していると報告されている. 側傾角に関して, 手術の49 日前時点では2.6°であったが, 術翌日には5.6°となっており, 術前の約2 か月で大きく悪化したものと考えられた. そのため, 骨盤のアライメント改善を意識して介入を行った. その結果, 側傾角は3.5°まで改善がみられた. 側傾角に関して, 川端らは股関節内転可動域( 以下, 内転可動域) と関連があると報告しており, 内転可動域の拡大が側傾角の改善に寄与したものと考えられた. 側傾角の改善に伴い, 自覚的脚長差の改善がしており,歩行時の違和感は軽減し, 独歩レベルまで歩行能力の向上が認められた. しかし, 歩行能力改善に伴い,2 次的に自覚的脚長差が改善した可能性もあり, その因果関係は不明である. また, 自覚的脚長差に関して, 完全消失には至っておらず, 最終評価時, 一部跛行がみられていた. 今後, 自覚的脚長差にどのような因子が関与するか更に検証していきたい.【倫理的配慮,説明と同意】本症例に対し, 学会発表の主旨, 目的等を説明し, 書面にて同意を得た.
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2021.0_120