診断早期かつ歩行自立期の筋萎縮性側索硬化症患者に対しロボットスーツHAL® の実施により歩行能力が向上した一症例
【はじめに】当院では筋萎縮性側索硬化症( 以下:ALS) 患者に対し、ロボットスーツHAL®医療用下肢タイプHAL - ML05( 以下:HAL) を用いた入院治療を行っている。今回、診断早期かつ独歩歩行自立のALS 患者に対しHAL 及び免荷式リフトPOPO( 以下:POPO) を使用した歩行練習を導入し、歩行能力の向上を認めたため報告する。【症例紹介】症例は、両上肢挙上困難、階段の上りにくさの主訴で発症した上肢型の72 歳男性。2020 年1 月に他院で確定診断を受けた翌月より、ラジカット治療目的にて毎月10 日間当院へ定期入院を開始した。初回入院時、身長168cm、体重60.3kg、BM...
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Published in | Kyushu physical therapist Congress Vol. 2021; p. 21 |
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Main Authors | , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
2021
Kyushu Physical Therapy Association |
Subjects | |
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ISSN | 2434-3889 |
DOI | 10.32298/kyushupt.2021.0_21 |
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Summary: | 【はじめに】当院では筋萎縮性側索硬化症( 以下:ALS) 患者に対し、ロボットスーツHAL®医療用下肢タイプHAL - ML05( 以下:HAL) を用いた入院治療を行っている。今回、診断早期かつ独歩歩行自立のALS 患者に対しHAL 及び免荷式リフトPOPO( 以下:POPO) を使用した歩行練習を導入し、歩行能力の向上を認めたため報告する。【症例紹介】症例は、両上肢挙上困難、階段の上りにくさの主訴で発症した上肢型の72 歳男性。2020 年1 月に他院で確定診断を受けた翌月より、ラジカット治療目的にて毎月10 日間当院へ定期入院を開始した。初回入院時、身長168cm、体重60.3kg、BMI21.4kg/ ㎡、上肢筋力は近位筋優位に低下しMMT2 レベル、握力は右23.1kg、左17kg。下肢筋力は4 レベルでFunctional Balance Scale(以下:FBS):56 点。ALS の機能評価尺度改訂版ALSFRS-R42 点、厚生労働省ALS 重症度分類2 度で認知機能は問題。FIM 運動項目は78 点で清拭以外ADL 自立し、定年退職後、ドライブや散歩(数km)、ジムに通うなど活動的に暮らしていた。【理学療法評価と経過:HAL 休止期(入院初回〜 4 回目)】初回入院時、2 分間歩行試験( 以下:2MWT):157.3m、10m 最大歩行試験(以下:10MWT):6.4 秒、大腿四頭筋筋力Hand Held Dynamometer( 以下:HHD):19.3kgf/18.9kgf であった。HAL を9 回実施し筋力向上を認めたが、症例自身に効果の実感が得られず初回入院時のみで休止に至った。休止期間中は、通常リハとして筋力トレーニングや独歩または前腕支持型歩行器での歩行練習(1 日あたりの歩行距離500 m程度) を実施した。しかし入院4 回目(HAL 休止から3 ヶ月)には、2MWT:81.1m(初回入院時より48% 減)、HHD:17kgf/17.8kgf(初回入院時より10% 減)と、歩行耐久性が著明に低下した。この間、在宅生活ではほぼ毎日外出するなど身体活動量を維持していたが、体重4kg 減かつFBS:52 点と全体的に身体能力が低下した。【理学療法評価と経過:HAL 再開期(入院5 回目~ 7 回目)】症例よりHAL の希望があり入院5 回目より再開した。HAL の設定は初回時同様とし、CVC モード・感度レベル(股関節A2 膝関節A1)・トルクリミット(股関節30、膝関節30)、POPO 免荷量は20kg で行った。HAL の練習時間は1 回20 分程度(歩行距離600m 程度)、隔日で計4 回実施し、他は通常リハを行った。症例はHAL に対し、「疲労は普通に歩くより残らない。歩きやすくなった。満足度90%。」と内省は良好であった。毎回HAL 後に2MWT、10MWT における即時効果に加え、入院7回目(HAL 再開から3 ヶ月)には、2MWT:127.7m、10MWT:9.2 秒、HHD:19.1kgf/18.2kgf と、HAL 休止期と比べ2MWT および筋力が向上し、初回入院時より最大半分程度まで低下していた2MWT は80% まで回復した。【考察】今回、定期的に通常リハを実施した3 ヶ月間に歩行能力が著明に低下した症例に対し、HAL を実施したことで2MWT の短期回復を認め、定期的なHALの実施によって歩行能力の向上と進行スピードの緩徐化に寄与したと考えられた。中島(2016)は、定期的・間欠的に治療的にHAL を装着することで、運動単位に過活動や過興奮を引き起こさず筋萎縮・筋力低下の疾患の進行を抑制させると述べている。一方、ALS に対する有酸素運動や筋力トレーニングについては、ALS 診療ガイドライン(2013 年)ではグレードC1 で効果的な負荷量は明記されておらず、適切な運動負荷の設定が難しい現状にある。そのため、歩行自立期であっても進行抑制を目的に、ALS の診断早期から積極的にHALを導入する有用性は高いと考えられた。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し、対象者に口頭で説明し同意を得た。 |
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ISSN: | 2434-3889 |
DOI: | 10.32298/kyushupt.2021.0_21 |