Terrible triad injury 後の前腕回旋制限に対し持続伸張と超音波療法の同時施行が有効であった一例

【はじめに】Terrible triad injury( 以下:TTI) は(1)肘関節後方脱臼(2)尺骨鉤状突起骨折(3)橈骨頭骨折の同時損傷例であり、解剖学的再建を行っても肘関節不安定症により二次的に拘縮が生じ、長期的には変形性肘関節症に陥るとされる。日常生活動作( 以下:ADL) における前腕回旋運動の有用性として、洗顔動作、摂食動作、その他仕事など全ての動作に手は本質的な役割を果しており、この制限は諸動作を円滑に遂行する事を阻害させる。今回、TTI 骨接合術から1 年経過後に抜釘術を施行、肘関節拘縮を呈した症例を担当し、前腕回旋制限に対し小型スプリント使用による持続伸張(prolong...

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Published inKyushu physical therapist Congress Vol. 2021; p. 54
Main Author 熊谷, 俊孝
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2021
Kyushu Physical Therapy Association
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2021.0_54

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Summary:【はじめに】Terrible triad injury( 以下:TTI) は(1)肘関節後方脱臼(2)尺骨鉤状突起骨折(3)橈骨頭骨折の同時損傷例であり、解剖学的再建を行っても肘関節不安定症により二次的に拘縮が生じ、長期的には変形性肘関節症に陥るとされる。日常生活動作( 以下:ADL) における前腕回旋運動の有用性として、洗顔動作、摂食動作、その他仕事など全ての動作に手は本質的な役割を果しており、この制限は諸動作を円滑に遂行する事を阻害させる。今回、TTI 骨接合術から1 年経過後に抜釘術を施行、肘関節拘縮を呈した症例を担当し、前腕回旋制限に対し小型スプリント使用による持続伸張(prolonged stretch: 以下PS) 及び超音波療法(ultrasound therapy: 以下US) の同時施行による治療経験を以下に報告する。【症例紹介】性別: 男性 年齢:60 代前半 利き手: 右  診断名: 左肘頭脱臼骨折( 鉤状突起)・橈骨頭骨折X 年Y 月トラック荷台から転落し受傷。肘頭脱臼骨折に対して接合術、橈骨頭骨折に対しては人工橈骨頭置換術を施行。X 年Y + 12 ヵ月、肘頭脱臼骨折に対して抜釘術、人工橈骨頭はルーズニングを認め除去。最終肘関節屈曲/ 伸展110° / − 35°を確認。【方法】術後6 週より当院にて理学療法介入。術後8 週で肘関節屈曲/ 伸展95° / −50° (arc45° ) 前腕回外/ 回内35° /30° (arc65° )DASH( 機能障害/ 仕事スコア)38.5/50 点、日整会—日肘会肘機能スコア47 点、洗顔・摂食動作に支障を来たしていた。そこで前腕回旋制限に対しPS とUS を追加した。PS を目的としたスプリントを端野らの報告を参考に作成、スプリント作成に際し酒井医療製アクアプラスト‐T を使用、遠位橈尺関節部に装着し重錘(0.25、0.5、0.75 ㎏ ) を伸張痛に応じ負荷する事で実施した。US には伊藤超短波製イトーUS750 を用い、設定強度を1.5W/ ㎠、周波数3MHz、照射時間率100%連続波、実施時間は15 分とし、照射部位は円回内筋、回外筋とした。なお、実施は運動療法後の自主練習として行った。【結果】術後12 週: 肘関節屈曲/ 伸展105° / − 45° (arc60° ) 前腕回外/ 回内60° /40° (arc100° ) DASH( 機能障害/ 仕事スコア)29.1/25 点、日整会—日肘会肘機能スコア61 点、術後20 週: 肘関節屈曲/ 伸展105° / − 45° (arc60° ) 回外/ 回内70° /55° (arc125° ) DASH( 機能障害/ 仕事スコア)19.8/12.5点、日整会—日肘会肘機能スコア67 点であり上肢機能向上を認めた。【考察】TTI を代表とした肘複合不安定症は二次的に拘縮を生じる。特に、橈骨頭を切除したケースはより一層肘不安定性を助長し拘縮の治療に難渋する事が報告されている。前腕回旋運動を制動する因子として骨性の制限以外に前腕筋群、骨間膜があり、今回、前腕回旋制限に対しPS とUS の同時施行が可動域拡大に有効であった。US の温熱作用には軟部組織の粘弾性を変化させ、組織伸張性の増大・局所血流の促進をもたらす効果が報告され、併せてPS を実施したことで効率的に遠位橈尺関節部回外/ 回内方向へ伸張を加える事が可能となり、可動域拡大に繋がったと考えられる。また、森下らは振動刺激や組織温上昇から骨格筋内の高閾値機械受容器や筋紡錘に影響を与え疼痛閾値を上昇させる可能性を示唆しており、伸張刺激に対する閾値の上昇も1 つの要因であると考えた。前腕回旋運動は手関節・肩関節との連動性も要求され、この制限は上肢の運動連鎖を破綻させADL において影響を及ぼす事が考えられる。本症例は肘屈伸可動域に著明な改善を認められなかったが、前腕回旋可動域の獲得によりADL 向上に反映したものと考えた。【倫理的配慮,説明と同意】症例報告に際し、対象者に十分な説明と同意を得た。
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2021.0_54