コミュニケーション・ツールとしての環境報告書策定指針—グローバル製造業の温暖化対策情報開示の傾向分析

環境報告書は企業にとって重要なステークホルダーとのコミュニケーション・ツールである。報告書作成ガイドラインは多数あるものの,開示の情報量・内容とともに各企業の自由裁量に任されており,企業の環境担当者にとって使いやすい指針とはなっていない。本研究では,日米欧自動車会社8社の英文環境報告書の温暖化対策関連部分に着目し,企業を取り巻く環境の変化をふまえた環境報告書のあり方について,テキストマイニングを用いて使用語の発現場所の経年変化を分析することで,一指針を提示する。本研究では,日米欧の自動車メーカー8社により2010年と2013年に発行された英文環境報告書を分析対象とする。全体としては,2010年...

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Published in環境科学会誌 Vol. 30; no. 5; pp. 296 - 306
Main Authors 領家, 美奈, 大谷, 聡子, 山田, 秀
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 環境科学会 2017
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
Subjects
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ISSN0915-0048
1884-5029
DOI10.11353/sesj.30.296

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Summary:環境報告書は企業にとって重要なステークホルダーとのコミュニケーション・ツールである。報告書作成ガイドラインは多数あるものの,開示の情報量・内容とともに各企業の自由裁量に任されており,企業の環境担当者にとって使いやすい指針とはなっていない。本研究では,日米欧自動車会社8社の英文環境報告書の温暖化対策関連部分に着目し,企業を取り巻く環境の変化をふまえた環境報告書のあり方について,テキストマイニングを用いて使用語の発現場所の経年変化を分析することで,一指針を提示する。本研究では,日米欧の自動車メーカー8社により2010年と2013年に発行された英文環境報告書を分析対象とする。全体としては,2010年には本業の戦略とCO2排出削減活動がないまぜに記載される傾向が見られたが,2013年では,より具体的なCO2排出削減活動に関する語が分離される傾向が見られた。また語の発現場所の変化が最も大きかったHondaに関し分析したところ,経営の積極的関与を示す場所であるVisionの章において,より具体的な環境取組に関する語を多く取り入れたこと,またCO2排出削減活動の章で,より具体的な製品群毎のCO2排出削減活動について十分な情報を示したことがわかった。背景として,Climate Disclosure Standard Board(CDSB)による財務・環境統合情報開示フレームワークの発表や,Google FinanceへのCarbon Disclosure Project(CDP)開示スコアの掲載の開始等,企業を取り巻くビジネス環境変化があったが,こうした変化をふまえることも,開示効果を高めるために必要であることが考察された。本研究を通し,環境報告書の中のどの場所に,どういった語を用いて社会が求める情報を開示するかを検討することが,開示効果を高めるために必要であるという一指針が導かれた。
ISSN:0915-0048
1884-5029
DOI:10.11353/sesj.30.296