頭頸部癌に対する低侵襲性治療の新展開 放射線治療

近年, わが国ではがん患者数の増加と人口の急速な高齢化によって, 手術困難な症例に対する根治療法として放射線治療の期待は高まっている. 特に頭頸部癌は高齢者に多く, 治療後に生じる機能障害は患者の生活の質を著しく低下し社会復帰を難しくする. それ故, 根治性を高める集学療法の一つとしてだけでなく, 低侵襲治療としての役割も放射線治療は期待されている.  安全で効果的な放射線治療を提供するための戦略として放射線治療の「治療可能比」を高めることが重要であり, 線量分割法の工夫, 化学療法の併用による照射効果の増強, あるいは放射線防護剤の開発など, これまでにさまざまな研究と臨床応用が試みられてき...

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Published in日本耳鼻咽喉科学会会報 Vol. 118; no. 12; pp. 1399 - 1405
Main Authors 奥村, 敏之, 櫻井, 英幸, 石川, 仁, 水本, 斉志, 斎藤, 高, 粟飯原, 輝人, 熊田, 博明, 大西, かよ子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会 20.12.2015
日本耳鼻咽喉科学会
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ISSN0030-6622
1883-0854
DOI10.3950/jibiinkoka.118.1399

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Summary:近年, わが国ではがん患者数の増加と人口の急速な高齢化によって, 手術困難な症例に対する根治療法として放射線治療の期待は高まっている. 特に頭頸部癌は高齢者に多く, 治療後に生じる機能障害は患者の生活の質を著しく低下し社会復帰を難しくする. それ故, 根治性を高める集学療法の一つとしてだけでなく, 低侵襲治療としての役割も放射線治療は期待されている.  安全で効果的な放射線治療を提供するための戦略として放射線治療の「治療可能比」を高めることが重要であり, 線量分割法の工夫, 化学療法の併用による照射効果の増強, あるいは放射線防護剤の開発など, これまでにさまざまな研究と臨床応用が試みられてきた. 中でも, 90年代後半から画像診断学と照射技術が革新的に進歩し高精度放射線治療が日常臨床として導入されたことで, 有害事象を軽減しつつ病巣に集中した高線量照射が可能となった. とりわけ強度変調照射法 (IMRT) はリスク臓器に対する線量制約を規定できるため, 複雑で大きな標的を有する頭頸部癌の放射線治療法として積極的に用いられ, 中枢神経障害,視力喪失, 骨壊死などの重篤な有害事象だけでなく, 口腔乾燥症や白内障などの発生を避けつつ, 高線量照射による腫瘍制御を高めることが可能となった. 近年, 陽子線や炭素イオン線による粒子線治療も注目されている. 荷電粒子線はある深さで止まることと, 止まる直前で強い効果を発揮することができる線量集中性の高い放射線であり, IMRT と比較すると正常組織に対する低~中線量領域を大幅に減らすことができる. また, 照射後の再発腫瘍に対する根治的な救済療法として中性子捕捉療法が期待されている. これまでは原子炉を用いていたため, 実地医療への導入は困難であったが, 粒子線治療に用いられる加速器を利用した治療技術について国内の数施設で開発中であり, 臨床応用に向けて準備が進められている.
ISSN:0030-6622
1883-0854
DOI:10.3950/jibiinkoka.118.1399