「動物のことを知りたい」という情熱に支えられたシベット研究

「動物のことを知りたい」. 哺乳類学を志した人なら, 一度は思ったのではないだろうか. 我々が用いる言語を介してコミュニケーションを図ることができない対象だからこそ, この思いは強くなるのかもしれない. 動物図鑑を眺めては, 実物のにおいや走る姿を妄想していた幼少期の私も, この思いを抱いていた. 近年は自動撮影カメラやドローンなどを用いて, 実際に野生動物を観ることなく研究ができるようになった. つまり, 私がおこなったような懐中電灯とテレメトリー用アンテナを手に野生動物を追いかけまわる泥臭い研究は, 今後衰退する可能性がある. しかし, どんな野生動物でも, 観察個体と観察者が同じ時空間(...

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Published in哺乳類科学 Vol. 65; no. 1; pp. 77 - 81
Main Author 中林, 雅
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本哺乳類学会 2025
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Summary:「動物のことを知りたい」. 哺乳類学を志した人なら, 一度は思ったのではないだろうか. 我々が用いる言語を介してコミュニケーションを図ることができない対象だからこそ, この思いは強くなるのかもしれない. 動物図鑑を眺めては, 実物のにおいや走る姿を妄想していた幼少期の私も, この思いを抱いていた. 近年は自動撮影カメラやドローンなどを用いて, 実際に野生動物を観ることなく研究ができるようになった. つまり, 私がおこなったような懐中電灯とテレメトリー用アンテナを手に野生動物を追いかけまわる泥臭い研究は, 今後衰退する可能性がある. しかし, どんな野生動物でも, 観察個体と観察者が同じ時空間(空間の範囲は読者の判断に委ねる)を共有した時にしか得られない情報があるはずだ. たとえば, 観察個体が食べている食物のにおいや味は, モニター越しでは分からない. モニターが取りこぼす情報には, 動物の生態研究に欠かせないものもある.
ISSN:0385-437X
1881-526X
DOI:10.11238/mammalianscience.65.77