赤痢菌の病原性の研究:粘膜バリアーにおける病原体と宿主の相互作用の研究

病原細菌の多くは,ヒトの腸管粘膜を侵入門戸として感染・定着してさまざまな疾患を引き起こす。グラム陰性の病原細菌多くは,III型分泌装置とそれを通じて宿主細胞へ分泌される高度に機能分化したエフェクターをコードする遺伝子群を持ち,これらのエフェクターを通じて宿主機能を操り感染を円滑に進行させると同時に,自然免疫応答を巧みに回避・克服する。本研究では赤痢菌をモデルとして,病原細菌が感染開始から成立に至る過程で多く認められる,宿主細胞侵入,細胞内増殖,細胞間拡散,自然免疫応答抑制,オートファジー回避等,基本的な感染原理,新たな感染現象,および自然免疫応答を数多く発見・解明し,これを通じて微生物に対峙す...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in日本細菌学雑誌 Vol. 67; no. 4; pp. 257 - 268
Main Author 笹川, 千尋
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本細菌学会 2012
Online AccessGet full text
ISSN0021-4930
1882-4110
DOI10.3412/jsb.67.257

Cover

More Information
Summary:病原細菌の多くは,ヒトの腸管粘膜を侵入門戸として感染・定着してさまざまな疾患を引き起こす。グラム陰性の病原細菌多くは,III型分泌装置とそれを通じて宿主細胞へ分泌される高度に機能分化したエフェクターをコードする遺伝子群を持ち,これらのエフェクターを通じて宿主機能を操り感染を円滑に進行させると同時に,自然免疫応答を巧みに回避・克服する。本研究では赤痢菌をモデルとして,病原細菌が感染開始から成立に至る過程で多く認められる,宿主細胞侵入,細胞内増殖,細胞間拡散,自然免疫応答抑制,オートファジー回避等,基本的な感染原理,新たな感染現象,および自然免疫応答を数多く発見・解明し,これを通じて微生物に対峙する粘膜上皮のバリアーとしての意義を明らかにした。その結果,本研究は細菌病原性と宿主バリアーの概念に数多くのパラダイムシフトを導くとともに,感染における病原体と宿主の関係を分子・細胞から個体レベルにおいて包括的に理解する「感染生物学(Infection Biology)」の創成に深く貢献した。
ISSN:0021-4930
1882-4110
DOI:10.3412/jsb.67.257