突然死を来した若年発症急性大動脈解離の1例

急性大動脈解離は突然死を来す代表的疾患の一つであり,若年発症は比較的稀である。症例は16歳の男性で,母親に急性大動脈解離の手術歴があり,幼児期に精査するも異常は指摘されなかった。今回,突然の背部痛を主訴に近医を受診した。胸部単純X線撮影と12誘導心電図を施行されるも明らかな異常所見はなく,整形外科的疾患と診断され,鎮痛剤の投与で経過観察となっていた。近医初診から3日後に背部痛が増悪し,入浴中にけいれんを来し,心肺停止状態となり当院へ救急搬送された。来院時,心電図波形診断は心静止であった。胸部単純X線写真にて右大量血胸を認めたため,右胸腔ドレナージを施行した。蘇生処置を継続するも自己心拍再開には...

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Published in日本救急医学会雑誌 Vol. 22; no. 11; pp. 858 - 863
Main Authors 前田, 代元, 米盛, 輝武, 東岡, 宏明
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本救急医学会 2011
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Summary:急性大動脈解離は突然死を来す代表的疾患の一つであり,若年発症は比較的稀である。症例は16歳の男性で,母親に急性大動脈解離の手術歴があり,幼児期に精査するも異常は指摘されなかった。今回,突然の背部痛を主訴に近医を受診した。胸部単純X線撮影と12誘導心電図を施行されるも明らかな異常所見はなく,整形外科的疾患と診断され,鎮痛剤の投与で経過観察となっていた。近医初診から3日後に背部痛が増悪し,入浴中にけいれんを来し,心肺停止状態となり当院へ救急搬送された。来院時,心電図波形診断は心静止であった。胸部単純X線写真にて右大量血胸を認めたため,右胸腔ドレナージを施行した。蘇生処置を継続するも自己心拍再開には至らなかった。死亡時画像診断にて,右胸腔内の大量血腫と大動脈の著明な虚脱を認め,急性大動脈解離から大量血胸を来し,出血性ショックに至ったことが死亡原因と考えられた。遺族同意のもと,同日病理解剖を施行した。胸部大動脈解離は左鎖骨下動脈分岐直下より尾側に約20cmの長さで認め,後縦隔から右胸腔に大量の血腫が確認された。大動脈自体はやや発育不良で中膜において弾性繊維の乱れと断裂,嚢胞状中膜壊死(cystic medial necrosis)を認めた。大動脈解離の発生機序は中膜の異常が強く関与しているものと考えられている。本症例においては明らかな先天性疾患は指摘されていなかったが,年齢不相応の動脈硬化性病変や病理学的にMarfan症候群に類似の所見を認めており,何らかの先天性疾患が関与していた可能性が高い。若年発症の急性大動脈解離ではMarfan症候群などの先天性疾患が関与することが多いとされるが,Marfan症候群に特徴的な身体所見を認めない例でも,家族歴で急性大動脈解離が認められる場合は,繰り返し定期的に経過観察を行うことが重要であると考えられる。
ISSN:0915-924X
1883-3772
DOI:10.3893/jjaam.22.858