分子標的治療薬の現状の課題と将来展望

抗がん剤を用いてがん細胞を殺傷する化学療法は,がん細胞だけでなく,正常な細胞にも影響が及びやすく,不都合な副作用が一定程度発生することは不可避である。長年の研究の進歩により,標的とすべき遺伝子やタンパク質が分子レベルでわかるようになった結果,分子標的治療薬が登場した。すなわち,分子標的治療薬は,がん細胞に多く見られたり,がんの増殖に関係したりする分子に標的を定めて開発された薬物群であり,正常な細胞への影響が少ないとされているが,薬剤ごとに特徴的な副作用が知られているので,注意が必要である。分子標的治療薬の中には,がん細胞に直接作用するだけでなく,がんに栄養を送る血管の新生を阻害する作用を持つも...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published inToyama Medical Journal Vol. 30; no. 1; pp. 1 - 9
Main Author 服部, 裕一
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 富山大学医学会 2020
Subjects
Online AccessGet full text

Cover

Loading…
More Information
Summary:抗がん剤を用いてがん細胞を殺傷する化学療法は,がん細胞だけでなく,正常な細胞にも影響が及びやすく,不都合な副作用が一定程度発生することは不可避である。長年の研究の進歩により,標的とすべき遺伝子やタンパク質が分子レベルでわかるようになった結果,分子標的治療薬が登場した。すなわち,分子標的治療薬は,がん細胞に多く見られたり,がんの増殖に関係したりする分子に標的を定めて開発された薬物群であり,正常な細胞への影響が少ないとされているが,薬剤ごとに特徴的な副作用が知られているので,注意が必要である。分子標的治療薬の中には,がん細胞に直接作用するだけでなく,がんに栄養を送る血管の新生を阻害する作用を持つものもあり,また,発症したがんでは,がん細胞が免疫機能にブレーキをかけて本来の力を発揮できないようにしていると考えられているが,免疫チェックポイント阻害薬のように,がん細胞が免疫にかけているブレーキを外す作用を持ち,免疫が本来持っている機能を回復させ,がんを抑えようとする治療薬も含まれる。分子標的治療薬による薬物療法は,時に治療期間が長くなり,そのため身体的な副作用以外に高額な費用負担という経済的副作用があり,臨床医の治療選択にも影響する。本稿は,現在の多様な分子標的治療薬の中から,その歴史的意義のある,あるいは存在的意義を高めたいくつかを紹介しながら,今後のがん治療の化学療法の概念を大きく変えていくであろうその果たす役割について考察する。
ISSN:2189-2466
2758-6014
DOI:10.57561/tmjutmed.30.1_1