内膜全周性断裂による flap suffocation を呈した Stanford A 型急性大動脈解離の1手術例

‘flap suffocation’は,冠動脈近傍に生じた内膜の全周性断裂により,解離した内膜がflap状となり,間欠的に冠動脈口を閉塞し,心筋虚血を惹起する病態で,冠動脈虚血を呈する急性A型解離のうちでもまれなものと考えられる.症例は52歳の男性である.就業中に胸背部の激痛を自覚し当院に救急搬送された.心電図上広範なST低下を認め,左冠動脈主幹部を責任病変とした急性心筋梗塞を疑われ循環器科で緊急冠動脈造影を試みたが,偽腔造影となり冠動脈口へのアプローチはできなかった.この時点で当科紹介となり,緊急CTを行ったところ大動脈基部から腸骨動脈に及ぶStanford A型解離でバルサルバ洞内も全周性...

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Published in日本心臓血管外科学会雑誌 Vol. 42; no. 4; pp. 302 - 306
Main Authors 佐藤, 浩之, 山下, 知剛, 松居, 喜郎, 山内, 英智
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会 2013
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ISSN0285-1474
1883-4108
DOI10.4326/jjcvs.42.302

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Summary:‘flap suffocation’は,冠動脈近傍に生じた内膜の全周性断裂により,解離した内膜がflap状となり,間欠的に冠動脈口を閉塞し,心筋虚血を惹起する病態で,冠動脈虚血を呈する急性A型解離のうちでもまれなものと考えられる.症例は52歳の男性である.就業中に胸背部の激痛を自覚し当院に救急搬送された.心電図上広範なST低下を認め,左冠動脈主幹部を責任病変とした急性心筋梗塞を疑われ循環器科で緊急冠動脈造影を試みたが,偽腔造影となり冠動脈口へのアプローチはできなかった.この時点で当科紹介となり,緊急CTを行ったところ大動脈基部から腸骨動脈に及ぶStanford A型解離でバルサルバ洞内も全周性に解離し両冠動脈入口部にも解離が及んでいた.心エコーでは3/4の大動脈弁逆流と解離内膜の存在を認め緊急手術となった.麻酔導入後体血圧低下と肺動脈圧上昇が進行しPp/Psが0.8を超える急性左心不全を呈し,経食道心エコーでは‘flap suffocation’を呈しており,左室壁運動は経時的に低下した.人工心肺確立後すぐに心室細動となり冠血流の途絶が考えられたため,心筋虚血時間を短縮するためすみやかに大動脈を遮断し直視下に選択的冠還流と逆行性心筋保護を行い心停止を得た.手術は上行大動脈置換術と冠動脈周囲内膜の固定,大動脈弁吊り上げを行った.術後経過は良好で,第25病日に独歩退院した.冠動脈虚血を伴うA型解離においては広範な心筋梗塞が完成する前に迅速かつ的確な治療が必要である.比較的まれな病態と考えられる‘flap suffocation’の救命例として報告する.
ISSN:0285-1474
1883-4108
DOI:10.4326/jjcvs.42.302