左室内血栓を伴ったアルコール性心筋症の1手術例

症例は62歳,男性.主訴は下肢浮腫,動悸息切れを訴え入院した.既往歴で20年以上の大量飲酒歴を認めた.家族歴には心筋症を疑う病歴は認めなかった.胸部X線写真では,胸水,心拡大,肺うっ血像,心電図は心拍数40/分の洞性徐脈,左室肥大と冠性T,心室内伝導障害を認めた.心エコーでは心室中隔と左室自由壁のdyssnchrony,駆出率20%,左室心尖部に2.5 cm大の有茎性可動性の腫瘤影を認めた.脳CT検査では多発性の梗塞所見を認めた.緊急手術を計画したが,約2週間,出血性梗塞の経過を見るため手術は延期した.その間,ヘパリンによる抗凝固療法を併用しつつ,2週間後に左室血栓摘出術,徐脈,ventric...

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Published in日本心臓血管外科学会雑誌 Vol. 42; no. 4; pp. 324 - 328
Main Authors 坂本, 滋, 坂本, 大輔
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会 2013
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Summary:症例は62歳,男性.主訴は下肢浮腫,動悸息切れを訴え入院した.既往歴で20年以上の大量飲酒歴を認めた.家族歴には心筋症を疑う病歴は認めなかった.胸部X線写真では,胸水,心拡大,肺うっ血像,心電図は心拍数40/分の洞性徐脈,左室肥大と冠性T,心室内伝導障害を認めた.心エコーでは心室中隔と左室自由壁のdyssnchrony,駆出率20%,左室心尖部に2.5 cm大の有茎性可動性の腫瘤影を認めた.脳CT検査では多発性の梗塞所見を認めた.緊急手術を計画したが,約2週間,出血性梗塞の経過を見るため手術は延期した.その間,ヘパリンによる抗凝固療法を併用しつつ,2週間後に左室血栓摘出術,徐脈,ventricular dyssnchronyと手術周術期の低心機能に対してatrio-biventricular pacingを同時施行した.手術時の心内膜心筋生検では心筋細胞の肥大と線維化の進行所見が認められ心筋症が強く疑われた.術後心拍はペースメーカーでリズムコントロールができ,循環動態は安定化した.また,脳出血などの合併も認めず,術後3週間で退院した.アルコール性心筋症は多年にわたるアルコール摂取により,特発性拡張型心筋症に類似した臨床像がみられることがある.実際に心筋症になるか否かは,遺伝的要因が関わってくる.重篤な心不全に至る前に断酒あるいは節酒を行えば進行を抑えることができ,予後は悪くない.本例は,脳血栓塞栓症を合併していたために,準緊急的に開心術を施行したが,できれば脳血栓塞栓を発症する以前に,心内血栓を発見しだい,血栓摘除術を施行すべき症例と考えられた.
ISSN:0285-1474
1883-4108
DOI:10.4326/jjcvs.42.324