仮名の脱字を主症状とする書字障害例 —仮名書字プロセスの検討

仮名だけに脱字を認めた書字障害の例を報告した。仮性球麻痺で発症した患者で,四肢には運動障害を認めなかったが,発声・発語器官の運動障害は顕著で,重度の運動障害性構音障害と軽度の嚥下障害を認めた。神経心理学的には,書字障害を説明しうる失語症や失行,失認は認めず,知的にも保たれていた。書字の際,仮名文字に限定した脱字が頻繁にみられ,そのために書字での伝達に困難をきたすほどであった。脱字の要因を明らかにするために仮名書字の各過程を分析したところ,音韻抽出力にのみ低下を示した。その誤り方は,指定音が単語中での正位置より常に前方へとずれており,書字症状と共通していた。本例の仮名脱字は,いったんは正しくモー...

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Published in失語症研究 Vol. 20; no. 4; pp. 280 - 286
Main Authors 三島, 佳奈子, 武田, 克彦, 野島, 啓子, 清水, 俊夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会) 2000
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Summary:仮名だけに脱字を認めた書字障害の例を報告した。仮性球麻痺で発症した患者で,四肢には運動障害を認めなかったが,発声・発語器官の運動障害は顕著で,重度の運動障害性構音障害と軽度の嚥下障害を認めた。神経心理学的には,書字障害を説明しうる失語症や失行,失認は認めず,知的にも保たれていた。書字の際,仮名文字に限定した脱字が頻繁にみられ,そのために書字での伝達に困難をきたすほどであった。脱字の要因を明らかにするために仮名書字の各過程を分析したところ,音韻抽出力にのみ低下を示した。その誤り方は,指定音が単語中での正位置より常に前方へとずれており,書字症状と共通していた。本例の仮名脱字は,いったんは正しくモーラに分解処理された仮名単語に各文字を当てはめていく過程でモーラ数の枠組みに崩壊が生じたためであると考えられた。
ISSN:0285-9513
1880-6716
DOI:10.2496/apr.20.280