日本語の特性と失語症セラピーのあり方

本稿では, 日本語の特性からみた失語症セラピーのあり方について私見を述べた。まず, 本題に入るための序として, 理論言語学(普遍文法)から失語症セラピーへの架橋の可能性に関して, そこには依然未解決の問題があり, また臨床的には個別言語の特性が看過できないことを指摘した。続いて, 日本語の特性という視点から 2 つのトピックを取り上げ, 日本語における失語症セラピーの方略が, 近代英仏語などとは異なる例を挙げた。まず 1 つめに, モーラと仮名という音韻論上の特性を取り上げた。日本語話者の脳内における音韻論上の単位が音素ではなくモーラであることにより, 日本語の認知神経心理学的言語情報処理モデ...

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Published in高次脳機能研究 (旧 失語症研究) Vol. 41; no. 2; pp. 152 - 162
Main Author 小嶋, 知幸
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会 30.06.2021
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ISSN1348-4818
1880-6554
DOI10.2496/hbfr.41.152

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Summary:本稿では, 日本語の特性からみた失語症セラピーのあり方について私見を述べた。まず, 本題に入るための序として, 理論言語学(普遍文法)から失語症セラピーへの架橋の可能性に関して, そこには依然未解決の問題があり, また臨床的には個別言語の特性が看過できないことを指摘した。続いて, 日本語の特性という視点から 2 つのトピックを取り上げ, 日本語における失語症セラピーの方略が, 近代英仏語などとは異なる例を挙げた。まず 1 つめに, モーラと仮名という音韻論上の特性を取り上げた。日本語話者の脳内における音韻論上の単位が音素ではなくモーラであることにより, 日本語の認知神経心理学的言語情報処理モデルは, 英語圏由来のものとは明らかに異なるアーキテクチャとなる。さらに, モーラを 1 文字表記するという世界でも稀な文字体系の存在と相俟って, 日本語における失語症セラピーは, とりわけ音韻に関する部分では, 英仏語などにおけるセラピーにはないバリエーションを手に入れることができていると筆者は考える。2 つめに, 日本語で日常的にみられる「主語文」の問題について, かつて印欧古語において存在していた「中動態」をキーワードに論じた。そして, しめくくりとして, 主語 / 述語構造に捕らわれない視点からの日本語における文産生セラピーのアイデアを紹介した。
ISSN:1348-4818
1880-6554
DOI:10.2496/hbfr.41.152