脳梗塞により人物誤認を呈した一症例

【要旨】 症例は84歳男性で、心原性脳梗塞後に繰り返し他人を自分の家族・友人と誤認した。視力・聴力は正常、視野障害や半側空間無視を認めなかったが、担当のリハビリテーション職員の顔を覚えられず、他患者の面会者やリハビリテーション職員を自分の家族・友人と繰り返し誤認し、その誤りに気付かなかった。長谷川式認知症スケールは25/30点。視覚による物体失認を認めず相貌認知では、家族や有名人の熟知相貌識別に重度の障害、未知相貌の異同弁別・同時照合は中等度障害を認めたが、相貌の独自性の認識を求めない課題である表情の叙述、性別・老若の判断は比較的良好であった。家族・友人の人物意味記憶は保たれており、連合型相貌...

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Published in認知神経科学 Vol. 22; no. 2; pp. 88 - 97
Main Authors 菅原, 由美子, 飯塚, 千晶, 土居, 一哉, 松﨑, 研一郎, 長岡, 正範
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 認知神経科学会 01.01.2021
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Summary:【要旨】 症例は84歳男性で、心原性脳梗塞後に繰り返し他人を自分の家族・友人と誤認した。視力・聴力は正常、視野障害や半側空間無視を認めなかったが、担当のリハビリテーション職員の顔を覚えられず、他患者の面会者やリハビリテーション職員を自分の家族・友人と繰り返し誤認し、その誤りに気付かなかった。長谷川式認知症スケールは25/30点。視覚による物体失認を認めず相貌認知では、家族や有名人の熟知相貌識別に重度の障害、未知相貌の異同弁別・同時照合は中等度障害を認めたが、相貌の独自性の認識を求めない課題である表情の叙述、性別・老若の判断は比較的良好であった。家族・友人の人物意味記憶は保たれており、連合型相貌失認に似ているが、人声失認を合併している点が一般的な連合型相貌失認とは異なっていた。MRI病変は、右後頭・側頭葉でなく、視覚(顔)だけでなく聴覚(声)を含む多モダリティー人物認知障害(multimodal people recognition disorders)が生ずるとされる右前側頭葉を含む前頭・側頭葉に限局した。この相貌認知障害に加えて、右前頭葉が側頭葉に及ぼす探索(モニター)機能が障害されていることも本症例の誤認に関与している可能性がある。
ISSN:1344-4298
1884-510X
DOI:10.11253/ninchishinkeikagaku.22.88