創部感染を予防し得たクマ外傷の1例

近年,全国的にクマの目撃件数が増加している。2020年度のクマの出没件数は20,887件・外傷件数は158件と,出没件数・人的被害ともに統計のある2009年以降最多となった。クマ外傷はクマの殴打や爪・牙によって全身に生じうるが,特に頭頸部領域に多く耳鼻咽喉科・頭頸部外科医師が関わることも少なくない。眼球・鼻涙管・耳下腺管や顔面神経などの損傷を確認し,損傷の部位や程度に応じてそれぞれの専門科と共同で治療を行うことが必要となる。また動物による外傷では咬傷による汚染の他,草木や土泥による汚染が併存し,創縁が複雑で挫滅を伴っていることも多い。創部の十分な洗浄や抗菌薬,破傷風トキソイド,抗破傷風ヒト免疫...

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Published in日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 Vol. 3; no. 3; pp. 95 - 100
Main Authors 鈴木, 祐輔, 倉上, 和也, 欠畑, 誠治, 川合, 唯
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会 2023
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ISSN2435-7952
DOI10.24805/jiaio.3.3_95

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Summary:近年,全国的にクマの目撃件数が増加している。2020年度のクマの出没件数は20,887件・外傷件数は158件と,出没件数・人的被害ともに統計のある2009年以降最多となった。クマ外傷はクマの殴打や爪・牙によって全身に生じうるが,特に頭頸部領域に多く耳鼻咽喉科・頭頸部外科医師が関わることも少なくない。眼球・鼻涙管・耳下腺管や顔面神経などの損傷を確認し,損傷の部位や程度に応じてそれぞれの専門科と共同で治療を行うことが必要となる。また動物による外傷では咬傷による汚染の他,草木や土泥による汚染が併存し,創縁が複雑で挫滅を伴っていることも多い。創部の十分な洗浄や抗菌薬,破傷風トキソイド,抗破傷風ヒト免疫グロブリンによる感染予防が重要である。今回我々はクマによる顔面外傷の1例を経験した。症例は猟友会所属の69歳男性。イノシシ獲りの罠にツキノワグマが錯誤捕獲されており,処理を試みたところクマに襲われ,当院に救急搬送された。顔面および左前腕の挫創と右鼻涙管損傷を認め,全身麻酔下に眼科と合同で顔面・前腕皮膚縫合,涙管チューブ留置術を施行した。術前に破傷風トキソイド・抗破傷風ヒト免疫グロブリン投与し,術後にクラブラン酸・アモキシシリンおよびアモキシシリンを内服投与し,連日創部洗浄を行った。創部治癒は順調であり,術後10日目に退院した。クマ外傷の特徴や治療の注意点について若干の文献的考察を加え報告する。
ISSN:2435-7952
DOI:10.24805/jiaio.3.3_95