寝たきり高齢者の訪問看護における回想法活用の効果

在宅の寝たきり高齢者に対して,訪問看護師が回想法を活用した働きかけを行う効果を明らかにする目的で,介入研究を実施した.研究方法は,F県の5か所の訪問看護ステーションを利用している寝たきり高齢者18名に,訪問看護師が過去の肯定的な経験を振り返って語るよう促す介入を,5テーマについて各2週間ずつ合計10週間継続し,介入群とした.介入群と同じ訪問看護ステーションの高齢利用者で,寝たきりの程度その他の条件が介入群と同様の16名を対照群とした.両群について,介入前後の訪問看護時に,対象と訪問看護師との会話の録音記録をとった.その逐語録に基づいて研究者が,感謝,感情,笑い,誇り・自慢,人生観,現在の状態の...

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Published in日本地域看護学会誌 Vol. 6; no. 1; pp. 25 - 31
Main Authors 別所, 遊子, 吉田, 幸代, 細谷, たき子, 長谷川, 美香
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本地域看護学会 2003
Japan Academy of Community Health Nursing
Subjects
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ISSN1346-9657
2432-0803
DOI10.20746/jachn.6.1_25

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Summary:在宅の寝たきり高齢者に対して,訪問看護師が回想法を活用した働きかけを行う効果を明らかにする目的で,介入研究を実施した.研究方法は,F県の5か所の訪問看護ステーションを利用している寝たきり高齢者18名に,訪問看護師が過去の肯定的な経験を振り返って語るよう促す介入を,5テーマについて各2週間ずつ合計10週間継続し,介入群とした.介入群と同じ訪問看護ステーションの高齢利用者で,寝たきりの程度その他の条件が介入群と同様の16名を対照群とした.両群について,介入前後の訪問看護時に,対象と訪問看護師との会話の録音記録をとった.その逐語録に基づいて研究者が,感謝,感情,笑い,誇り・自慢,人生観,現在の状態の受けとめ,質問,意思・要求,自発的な症状の訴えの合計9項目ごとに発話を抽出し,それぞれ会話時間10分あたりの発話頻度を算出して,統計的に分析した.その結果,介入前(開始時)と介入後(終了時)の発話頻度は両群に差がなかった.項目別に見ると,「自分の状態の受けとめ」の項目は介入群のほうが対照群よりも有意に増加の割合が高かった.自尊感情5項目の合計得点は,開始時と終了時および前後変化のいずれについても両群に有意差がなかった.自尊感情の項目別に見ると,「自分はいろいろな良い素質をもっている」のみ介入群のほうが対照群よりも改善割合が有意に高かった.介入群について介入前後で比較した場合には合計得点が有意に増加しており,項目別には,「自分はいろいろな良い素質をもっている」と「物事を人並みにはうまくやれる」の2項目が有意に改善していた(p<.05).さらに,「大体において自分に満足している」の項目は改善傾向がみられた(p=.073).対照群では,合計得点も項目別得点も開始時と比較して終了時に有意な変化はなかった.寝たきり高齢者に対する回想法を活用した訪問看護師の働きかけは,対象の自己認識を肯定的な方向に改善すること,対象の言語的自己表出を促して訪問看護師とのコミュニケーションが促進されること,看護師がケアの方向を考える際の貴重な情報を得ることができることが示唆された.今後介入の方法,評価方法をさらに検討していきたい.
ISSN:1346-9657
2432-0803
DOI:10.20746/jachn.6.1_25