膀胱非乳頭状上皮内癌およびその境界病変に関する臨床病理学的研究

膀胱癌の初期病変である上皮内癌およびその境界領域の病変について病理組織学的形態を整理して概説し, これをもとにして教室症例の臨床像および臨床経過の検討を行なつた. 対象とした教室症例は上皮内癌6例, 高度異型上皮3例, 微小浸潤癌16例の合計25例である. この例数は教室における同期間の膀胱腫瘍全体の6%に過ぎないが, 例数の少ない理由の一つは, それらの臨床症状や内視鏡所見に特徴的なものが無いため, 日常の臨床で単なる膀胱炎として見逃がされている可能性も考えられた. 上皮内癌の診断における尿細胞診の有用性は広く認められているが, 教室例においても同様の結果で, 高度異型上皮や微小浸潤癌の症例...

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Published in日本泌尿器科學會雑誌 Vol. 73; no. 2; pp. 155 - 168
Main Author 福井, 巌
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 日本泌尿器科学会 1982
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ISSN0021-5287
1884-7110
DOI10.5980/jpnjurol1928.73.2_155

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Summary:膀胱癌の初期病変である上皮内癌およびその境界領域の病変について病理組織学的形態を整理して概説し, これをもとにして教室症例の臨床像および臨床経過の検討を行なつた. 対象とした教室症例は上皮内癌6例, 高度異型上皮3例, 微小浸潤癌16例の合計25例である. この例数は教室における同期間の膀胱腫瘍全体の6%に過ぎないが, 例数の少ない理由の一つは, それらの臨床症状や内視鏡所見に特徴的なものが無いため, 日常の臨床で単なる膀胱炎として見逃がされている可能性も考えられた. 上皮内癌の診断における尿細胞診の有用性は広く認められているが, 教室例においても同様の結果で, 高度異型上皮や微小浸潤癌の症例を含め, 検査を施行した19例全例に陽性所見を得た. さらに, 尿細胞診はこれらの症例に対して膀胱腔内への制癌剤注入療法や放射線療法を施行した際の効果判定やその後の再発ないし悪性進展の判定にも有用であつた. 臨床経過は, 膀胱保存的治療を施行した上皮内癌5例中4例, 高度異型上皮3例中2例と高率にその後腫瘍の粘膜下浸潤が認められたが, これに要した期間は診断後6カ月から, 長いものでは72カ月で, 平均30.5カ月であつた. 一方, 微小浸潤癌の予後は極あて悪く, 特に姑息的な手術を施行したものが不良で, そのほとんどが短期間のうちに癌死した. これは微小浸潤癌では, 組織学的にリンパ管侵入の頻度が高いことが一因と考えられた. 膀胱の上皮内癌, 高度異型上皮の非浸潤性粘膜病変と微小浸潤癌との差は病理組織像すなわち形態の上では紙一重ともいうことができるが, 両者の進展のテンポには大きな差が認められた.
ISSN:0021-5287
1884-7110
DOI:10.5980/jpnjurol1928.73.2_155