乳癌手術においてKocher鉗子で皮弁周囲を把持する術式と局所再発, 術後皮弁変化についての検討

乳癌手術時における皮弁形成は, 術式に関わらず必要な手技である.例えば, 乳房温存手術では皮弁作成範囲は狭く, 胸筋温存 (乳房切除) 手術においては必然的に広範囲となる.ところが, 皮弁を作成するにあたり最近この厚さに変化がみられている.熱メスや乳房温存手術の普及につれて, 脂肪層を皮膚側に付けたまま作成する皮弁が多用され, 皮弁自体は以前よりも厚くなっている.脂肪が皮弁側に残ることでのメリットは, 皮膚 (皮弁) の血流が保たれ, 手術中の皮弁取り扱いが簡便になることである.今までは皮弁の変化 (壊死, 等) を考えて慎重に扱わなければならなかったが, もしKocher鉗子で皮膚を直接把持...

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Published in昭和医学会雑誌 Vol. 62; no. 5; pp. 321 - 326
Main Authors 神谷, 憲太郎, 澤田, 晃暢, 井上, 和幸, 鈴木, 研也, 高野, 裕, 柏瀬, 立尚, 草野, 満夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学学士会 28.10.2002
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ISSN0037-4342
2185-0976
DOI10.14930/jsma1939.62.321

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Summary:乳癌手術時における皮弁形成は, 術式に関わらず必要な手技である.例えば, 乳房温存手術では皮弁作成範囲は狭く, 胸筋温存 (乳房切除) 手術においては必然的に広範囲となる.ところが, 皮弁を作成するにあたり最近この厚さに変化がみられている.熱メスや乳房温存手術の普及につれて, 脂肪層を皮膚側に付けたまま作成する皮弁が多用され, 皮弁自体は以前よりも厚くなっている.脂肪が皮弁側に残ることでのメリットは, 皮膚 (皮弁) の血流が保たれ, 手術中の皮弁取り扱いが簡便になることである.今までは皮弁の変化 (壊死, 等) を考えて慎重に扱わなければならなかったが, もしKocher鉗子で皮膚を直接把持するという行為が行えるようになるのであれば, 手術中の操作が円滑に進むようになると考えられる.そこで今回, 薄層皮弁を作成せず, Kocher鉗子にて皮弁を把持するという行為が患者の不利益になるものであるかについて検討を試みた.ただし前提条件として, 手術による切除断端が病理組織学的検査において陰性と確認されることが必要である.病理学的に証明されるのであれば, 皮弁を厚く作成することはなんら問題は無いと判断するためである.1997年4月~2001年10月に, 昭和大学医学部第2外科学教室で施行した原発乳癌手術症例382例中, 同一術者により施行された204例を対象とし, 手術後における閉創部周囲皮膚の変化 (皮弁壊死, 創部しかい, びらん, 等) の出現有無について検討した.結果としては, 204例中1例で, 創縁部に幅が約2cmに及ぶ三角形状の壊死後皮膚欠損を認めた.残りの203例においては術後約1ケ月間に皮膚の発赤やびらん, 壊死などはみられなかった. 摘出標本の切除断端が陰性であると診断されたにもかかわらず, 局所の皮膚再発が認められた症例が3例存在した.その3例は全例とも炎症性乳癌であった.Haagensenが薄層皮弁を作成してから局所再発が減少した.という事実より薄層皮弁が普及したのであるが, 今回の結果より, 皮弁を厚く作成しても皮弁側脂肪層への癌遺残は204例中1例も存在しておらず, 薄層皮弁にこだわる必要が無いと考えられた.そのうえで, Kocher鉗子で皮弁を把持するという行為は, 術後の皮膚障害 (壊死, びらん, 等) という意味合いにおいて, 皮弁側に脂肪が存在していれば手技として問題ないと結論づけて良いと考える.
ISSN:0037-4342
2185-0976
DOI:10.14930/jsma1939.62.321