無輸血開心術に関する研究
輸血合併症の防止および血液節減の目的で, 開心術にさいし術中, 術後を通して同種血液を全く使用しない, いわゆる無輸血開心術を試み, 本法の適応と限界, 無血充填希釈体外循環の病態生理, 低体温の併用, 術中, 術後出血量, 術後貧血および術後経過について検討した.対象は心房中隔欠損閉鎖術10例, 弁手術38例, A-Cバイパス術5例の計53例であるが, 無輸血開心術を行いえた症例は心房中隔欠損閉鎖術10例 (100%) , 開心僧帽弁交連切開術10例 (91%) , 僧帽弁置換術11例 (73%) , 大動脈弁置換術8例 (89%) , 僧帽弁置換術+大動脈弁置換術2例 (67%) , A-...
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Published in | 昭和医学会雑誌 Vol. 42; no. 3; pp. 335 - 346 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
昭和大学学士会
01.06.1982
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Summary: | 輸血合併症の防止および血液節減の目的で, 開心術にさいし術中, 術後を通して同種血液を全く使用しない, いわゆる無輸血開心術を試み, 本法の適応と限界, 無血充填希釈体外循環の病態生理, 低体温の併用, 術中, 術後出血量, 術後貧血および術後経過について検討した.対象は心房中隔欠損閉鎖術10例, 弁手術38例, A-Cバイパス術5例の計53例であるが, 無輸血開心術を行いえた症例は心房中隔欠損閉鎖術10例 (100%) , 開心僧帽弁交連切開術10例 (91%) , 僧帽弁置換術11例 (73%) , 大動脈弁置換術8例 (89%) , 僧帽弁置換術+大動脈弁置換術2例 (67%) , A-Cバイパス術3例 (60%) で, 全体としては83%であった.本法の成否は灌流時間 (p<0.01) , 術後出血量 (p<0.05) に大きく左右されるが, 灌流時間120分以内の症例では30例中28例 (93%) に, 120分以上では23例中16例 (70%) に無輸血開心術が可能であり, また無輸血例の術後出血量は心房中隔欠損閉鎖術症例306±103ml (Mean±S.D) , 弁手術およびA-Cバイパス術症例505±256mlと, 同種血輸血例の907±319mlに比べて有意 (P<0.05) に少なかった.また術後出血量は灌流時間と正の相関 (P<0.01) を, 灌流中Ht値および術直後血小板数と負の相関 (P<0.05) を示したことから, 灌流時間120分以内, 灌流中Ht値15~20%の高度希釈, 血小板数100×103/mm3以上という条件は無輸血開心術となる可能性を高めると考えられる.無血充填希釈体外循環は高度希釈となる可能性が高く, 60分以上の体外循環を要する症例では心筋保護を必要とし, さらに酸素運搬能の低下に対し鼻咽頭温と灌流中酸素消費量は正の相関 (P<0.001) を示すという結果から低体温の併用は不可欠と考えられる.希釈安全限界の術中水分バランス, 術後PaO2, Respiratory indexによる検討では高度希釈 (Ht値15~20%) 群は中等度希釈 (Ht 20~28%) 群に比べ術中水分負荷も多い (P<0.01) が尿排泄量も多く (P<0.01) Homeostasisが働いていると考えられる.PaO2は灌流直後に高度希釈群が中等度希釈群に比し低値 (P<0.05) を示し, またRespiratory Indexは灌流直後, 術直後に高度希釈群が中等度希釈群に比し高値 (P<0.05) を示したことから軽度の血管外水分貯留が示唆される.したがって, 血液希釈はHt15%以上が安全と考えられる.無輸血例の術後最低Ht値は心房中隔閉鎖術群35.2±2.9%, 弁手術およびA-Cバイパス術群30.0±4.8%と低値を示したが, 貧血の術後経過に対する影響は少ないと考えられた.術後の不快な合併症である術後肝炎は1例も認められず, 本法は術後肝炎の防止に有用と考えられる.以上のことから, 無輸血開心術はすべての症例に適用できる方法ではないが, 大多数の症例に適応可能であり, 術中, 術後の経過において同種血輸血症例に比べても何ら変ることなく順調な同復がえられ, 輸血合併症の防止, 血液節減の面からも有用であり試みられるべき方法である. |
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ISSN: | 0037-4342 2185-0976 |
DOI: | 10.14930/jsma1939.42.335 |