握力の低下と身体機能との関連

【目的】加齢に伴い様々な身体機能が低下する。特に筋力の低下は日常生活動作の制限に直接影響を与える要因であり、予防の重要性が広く認知されている。筋力のなかでも握力測定は地域での身体機能測定に広く用いられ、その測定結果はフレイルやサルコペニアの判断などに用いられている。加齢性変化は徐々に進行していくことから、その測定値は横断的な判断のみでなく、縦断的な変化も注意する必要があると考えた。そこで本研究では、縦断的な握力の変化を調査する意義を明らかにするため1年間の握力の変化と身体機能との関連を検討した。【方式】対象は、2018年と2019年行った身体機能測定に2年連続して参加した地域在住の60歳以上の...

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Published in日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集 p. 138
Main Authors 大杉, 紘徳, 窓場, 勝之, 安齋, 紗保理, 栗原, 靖, 桑江, 豊
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本予防理学療法学会 01.12.2022
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Summary:【目的】加齢に伴い様々な身体機能が低下する。特に筋力の低下は日常生活動作の制限に直接影響を与える要因であり、予防の重要性が広く認知されている。筋力のなかでも握力測定は地域での身体機能測定に広く用いられ、その測定結果はフレイルやサルコペニアの判断などに用いられている。加齢性変化は徐々に進行していくことから、その測定値は横断的な判断のみでなく、縦断的な変化も注意する必要があると考えた。そこで本研究では、縦断的な握力の変化を調査する意義を明らかにするため1年間の握力の変化と身体機能との関連を検討した。【方式】対象は、2018年と2019年行った身体機能測定に2年連続して参加した地域在住の60歳以上の男女14名とした。2018年には、握力と骨格筋量指標(skeletal muscle mass index:SMI)を測定し、2019年には、2018年の測定に加えて、Timed up and Go test(TUG)を実施した。握力とSMIは両年の変化率も算出した。2018年、2019年の握力、SMIをt検定で比較するとともに、TUGと各測定値と握力およびSMIの変化率との関係をPearsonの相関係数および年齢を調整した偏相関係数を用いて検討した。【結果】2018年と2019年の測定値を比較した結果、握力の測定値は有意差を認めなかったが、SMIには有意差を認めた(p<0.01)。相関分析では、握力とSMIともに2018年と2019年の測定値の間には有意な相関を認め(握力:r=0.97、SMI:r=0.99、ともにp<0.01)、握力とSMIとの間にも有意な相関を認めた(2018年:r=0.64、2019年:r=0.61、ともにp<0.05)。SMIの変化率は他の全ての項目と有意な相関を認めなかった。TUGと有意な相関を認めた項目は握力の変化率のみであり(r=- 0.58, p<0.05)、これは年齢を調整した偏相関係数でも有意だった。【結論】1年間で握力が低下した対象者は、TUGの成績が低いことが示された。握力の低下は、骨格筋量の減少によるものだけでなく、筋の協調性や神経系因子の影響によるものと考えられている。本研究でも、握力とSMIの間には有意な相関を認めたが、握力の変化率とSMI変化率との間には有意な相関を認めなかったことから、握力の低下は骨格筋の量的変化ではなく、筋の協調性や神経系因子の機能低下によるものと示唆される。TUGと握力の変化率に有意な関連を認めたのは、これら筋の協調性や神経系因子が関与していると考えられる。また、握力の低下は加齢の影響を受けるため、年齢の影響を調整したが、相関係数は有意なままであり、今回の参加者では年齢に関係なく、握力の低下が身体機能の低下と関連していることが示唆された。握力の低下は、その後の有害事象発生の強い予測因子であることも報告されているが、握力はその時点の測定値が低いことのみでなく、握力が経時的に低くなっていくかどうかを評価していくことも予防理学療法の視点として意義があると考えられる。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は研究者所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:01P190011)。また、対象者には研究趣旨を十分に説明するとともに、測定結果の研究利用について書面および口頭にて同意を得た。
ISSN:2758-7983
DOI:10.57304/jsptpsuppl.1.Suppl.No.1.0_138