労災病院の地域経済循環における間接的波及効果:モデル二次医療圏の分析から
【目的】国公立・公的医療機関は,診療報酬と患者の自己負担に加えて,税金や運営費交付金に基づく医療機能を有する。本研究の目的は,労災病院の立地する二次医療圏をモデル的に取り上げ,地域経済循環構造分析を用いて,地域経済循環における間接的波及効果を明らかにすることである。【対象と方法】対象は,32の労災病院が立地する29の二次医療圏である。環境省が提供している「地域経済循環分析自動作成ツール」を用いて,域内総生産および域内総生産に占める消費,投資,その他の経常収支(以下「経常収支」とする)の割合を算出し,各二次医療圏における域内総生産に占める域外からの財政移転の割合と,雇用者所得に占める保健衛生等の...
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Published in | 日本医療・病院管理学会誌 Vol. 59; no. 1; pp. 36 - 44 |
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Main Authors | , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
31.01.2022
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Subjects | |
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ISSN | 1882-594X 2185-422X |
DOI | 10.11303/jsha.59.36 |
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Summary: | 【目的】国公立・公的医療機関は,診療報酬と患者の自己負担に加えて,税金や運営費交付金に基づく医療機能を有する。本研究の目的は,労災病院の立地する二次医療圏をモデル的に取り上げ,地域経済循環構造分析を用いて,地域経済循環における間接的波及効果を明らかにすることである。【対象と方法】対象は,32の労災病院が立地する29の二次医療圏である。環境省が提供している「地域経済循環分析自動作成ツール」を用いて,域内総生産および域内総生産に占める消費,投資,その他の経常収支(以下「経常収支」とする)の割合を算出し,各二次医療圏における域内総生産に占める域外からの財政移転の割合と,雇用者所得に占める保健衛生等の割合を基準に二次医療圏を分類した。両割合が平均値以上である二次医療圏を,操作的に財政移転・保健衛生雇用依存地域と定義し,この地域の経済循環構造パターンの特徴を,他の二次医療圏のパターンとの比較から抽出した。【結果】財政移転・保健衛生雇用依存地域は,南空知,釧路,八戸,大舘・鹿角,鳥取西部,北九州,飯塚,佐世保北,八代の9つの二次医療圏であった。この地域のすべての二次医療圏では,消費は流入する一方,投資と経常収支は流出し,総合的な収支も流出しているという独特な地域経済循環構造パターンを示していた。他の20地域でこのパターンが認められたのは,新潟県上越二次医療圏,富山県新川二次医療圏,岡山県南東部医療圏および香川県西部二次医療圏であった。財政移転・保健衛生雇用依存地域のすべての二次医療圏において,地域の雇用者所得に占める割合が最も高い産業は保健衛生等であった。【考察】財政移転・保健衛生雇用依存地域では,住民を支える最大の産業は保健医療領域であり,医療機関は診療報酬等の財政移転の受け皿となり,地域の雇用を維持し,地域の消費を支えていることを,本結果は示唆していた。サービスの生産と消費が同時に行われるという医療の特徴を踏まえ,医療は財政移転・保健衛生雇用依存地域の生産・消費拠点として,地域経済の域内循環の促進および地域企業・人材の育成に寄与できると考えられる。【結論】地域経済循環構造の観点から,医療の間接的波及効果には,医療サービスの対価として公費を受け取り,地域での雇用を支え,地域の消費を喚起する側面がある。 |
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ISSN: | 1882-594X 2185-422X |
DOI: | 10.11303/jsha.59.36 |