祖父母世代の貧困と孫のBMIと抑うつの関係:東京都「子どもの生活実態調査」の分析

目的 本研究は,祖父母世代の貧困が親世代の貧困を統制しても孫のBMIと抑うつに影響があるのかを明らかにすることを目的とした。方法 東京都(2016年)が行った都下の4つの自治体の小学5年生,中学2年生,高校2年生の年代の全児童とその保護者を対象とした子どもの生活実態調査(有効回収数8,367票,有効回答率42.0%)のデータを用いて,まず,祖父母世代の貧困と親の貧困による4つの貧困タイプに分類し,BMIと抑うつの値の差を検証した。次に,祖父母世代の貧困が親世代の貧困と親世代のBMIと抑うつと関連し,それらを介して孫のBMIと抑うつと関連するといった関係に加え,直接的にも孫のBMI・抑うつに関連...

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Published in日本公衆衛生雑誌 Vol. 68; no. 5; pp. 339 - 348
Main Author 阿部, 彩
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本公衆衛生学会 15.05.2021
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Summary:目的 本研究は,祖父母世代の貧困が親世代の貧困を統制しても孫のBMIと抑うつに影響があるのかを明らかにすることを目的とした。方法 東京都(2016年)が行った都下の4つの自治体の小学5年生,中学2年生,高校2年生の年代の全児童とその保護者を対象とした子どもの生活実態調査(有効回収数8,367票,有効回答率42.0%)のデータを用いて,まず,祖父母世代の貧困と親の貧困による4つの貧困タイプに分類し,BMIと抑うつの値の差を検証した。次に,祖父母世代の貧困が親世代の貧困と親世代のBMIと抑うつと関連し,それらを介して孫のBMIと抑うつと関連するといった関係に加え,直接的にも孫のBMI・抑うつに関連するというモデルを仮定し,モデルの適合性と変数間の関連を,構造方程式モデリング(SEM)を用いて分析した。分析に用いたのは,保護者票の回答者が母親であった小学5年生2,407票,中学2年生2,415票であった。指標には,孫にはBMIとバールソン児童用抑うつ尺度(DSRS-C),親にはBMIおよびK6を用いた。結果 抑うつについては,祖父母世代では貧困であったが,現在貧困でない層は非貧困層に比べ統計的に有意に抑うつ指標が高かった。しかし,BMIについては統計的な有意差はなかった。また,SEM分析の適合度は,BMIの場合はCFI=0.907,RMSEA=0.036,抑うつ指標の場合はCFI=0.810,RMSEA=0.037であった。祖父母の貧困は,BMIについては親のBMIを介して子のBMIと正に関連しているものの,直接的な関連や親の貧困を介した関連は見られなかった。しかし,抑うつについては,親の貧困,親の抑うつを介した正の関連に加え,直接的な正の関連が認められた。結論 抑うつについては,祖父母世代の貧困は,親の貧困と抑うつを介さない祖父母世代からの不利の蓄積が孫の抑うつと正に関連しており,その対策には,現時点の親と子の状況の改善のみならず,将来,子が親となる時に不利を孫に伝承しない「3世代アプローチ」が必要である。一方,BMIについては,親と子の2世代の現時点のBMIに対する政策が有効であると考えられる。
ISSN:0546-1766
2187-8986
DOI:10.11236/jph.20-074