偽性高クロール血症を契機に診断された市販解熱鎮痛薬連用による慢性臭素中毒の1例

患者は87歳の女性で,全身倦怠感,食思不振,前胸部痛や悪心が見られるようになったため近医を受診し,検査や投薬を受けたが,改善が認められないため,当科を紹介され入院した.精査の結果,たこつぼ型心筋症と吻合部潰瘍が認められた.入院時血液検査で血清Clが118 mmol/Lと高値であったが,血清Naは139 mmol/Lで,アニオンギャップは-3.3 mmol/Lと負の値を呈していた.偽性高クロール血症と考え,改めて病歴を聴取したところ,頭痛のためブロムワレリル尿素を含む市販解熱鎮痛薬を常用していることが判明した.入院11日目に血中臭素濃度を測定したところ331.2 mg/Lと高値であった.当該市販...

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Published in日本老年医学会雑誌 Vol. 61; no. 2; pp. 236 - 241
Main Authors 梅川, 康弘, 大橋, 啓司
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本老年医学会 25.04.2024
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Summary:患者は87歳の女性で,全身倦怠感,食思不振,前胸部痛や悪心が見られるようになったため近医を受診し,検査や投薬を受けたが,改善が認められないため,当科を紹介され入院した.精査の結果,たこつぼ型心筋症と吻合部潰瘍が認められた.入院時血液検査で血清Clが118 mmol/Lと高値であったが,血清Naは139 mmol/Lで,アニオンギャップは-3.3 mmol/Lと負の値を呈していた.偽性高クロール血症と考え,改めて病歴を聴取したところ,頭痛のためブロムワレリル尿素を含む市販解熱鎮痛薬を常用していることが判明した.入院11日目に血中臭素濃度を測定したところ331.2 mg/Lと高値であった.当該市販薬内服を禁止し,いったんは全身状態が改善し,血清Clも低下したが,慢性頭痛のため内服を再開したため,血清Clが再上昇を繰り返し,退院後1年半を過ぎたころから倦怠感,呼吸困難感,食思不振が出現したため第2回入院となった.この時の血中臭素濃度は431.5 mg/Lと著増していた.当該市販薬を飲まないように指導はしていたが,血清Clが基準値内で推移し,血中臭素濃度が十分低下するまでには2年以上を要した.市販薬の中にも依存性を持つブロムワレリル尿素を含むものがあり,薬物濫用に関して十分注意しておく必要がある.また,原因のはっきりしない倦怠感などの非特異的症状があり,高Cl血症が認められる場合は臭素中毒を念頭に詳細な病歴聴取が肝要である.
ISSN:0300-9173
DOI:10.3143/geriatrics.61.236