発達研究における縦断的アプローチの役割と方法論:What, Why and How?
縦断研究は,対象の経時的な変化の様相と機序を解明するための科学的手法として確立された地位を築いているが,発達研究においてどのような強みを持ち,また,どのような限界や陥穽を有するのかについて,必ずしも明確な認識が共有されていない。そこで本稿では,実際の発達研究の文脈に即して,縦断研究とは何か(What),なぜ必要なのか(Why),どのように進めるか(How)について多面的に議論した。縦断研究には,測定方法,測定間隔・期間,要因操作の有無などの点で異なる多様な研究デザインが含まれるが,これらに共通しているのは,同一の対象から複数時点でのデータを収集し,個人内の時系列的な変化や関連に着目した分析を行...
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Published in | 発達心理学研究 Vol. 33; no. 4; pp. 176 - 192 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 日本発達心理学会
2022
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Subjects | |
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ISSN | 0915-9029 2187-9346 |
DOI | 10.11201/jjdp.33.176 |
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Summary: | 縦断研究は,対象の経時的な変化の様相と機序を解明するための科学的手法として確立された地位を築いているが,発達研究においてどのような強みを持ち,また,どのような限界や陥穽を有するのかについて,必ずしも明確な認識が共有されていない。そこで本稿では,実際の発達研究の文脈に即して,縦断研究とは何か(What),なぜ必要なのか(Why),どのように進めるか(How)について多面的に議論した。縦断研究には,測定方法,測定間隔・期間,要因操作の有無などの点で異なる多様な研究デザインが含まれるが,これらに共通しているのは,同一の対象から複数時点でのデータを収集し,個人内の時系列的な変化や関連に着目した分析を行う点である。こうした特徴を持つ縦断的アプローチが発達研究において発揮する有効性は,(1)年齢・コホート・時期の効果を分離できること,(2)個人内変動の軌跡とその個人差を定量化できること,(3)因果関係(特に時間的順序性)に関する手がかりを得られることの3点に整理できる。縦断的アプローチにより,個人内の時間的変動という軸が加わることで,現象を捉える視点は飛躍的に複雑さを増す。こうした視点の複雑さは,研究デザインやデータ分析の方法論の複雑化という代償とともに,横断研究とは全く異なる種類の創造的なリサーチクエスチョンの創出をもたらすことで,発達研究の広がりと深まりに貢献するであろう。 |
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ISSN: | 0915-9029 2187-9346 |
DOI: | 10.11201/jjdp.33.176 |