コロンビア国ティニグアおよびマカレナ国立公園の熱帯雨林で観察された一回繁殖型草本性タケ類の1種Pharus virescesの種子散布者

草本性タケ類の1種Pharus virescesは1回繁殖型で南米コロンビア国のティニグアおよびマカレナ国立公園の熱帯雨林の林床優占種である。1990年10月から91年1月にかけ,ティニグア国立公園ドゥダ川右岸にあるマカレナ生態学研究センター周辺の熱帯雨林において一斉開花枯死が観察されたのを機会に個体群の回復過程を継続して調査した結果,1995年10月から96年1月にかけ再び一斉開花枯死を起こした。種子の散布型は籾の一部が鈎型の短く硬い毛で覆われ,ヒトの衣服や動物の体表に付着して果序ごと,あるいは籾の状態で運ばれるいわゆるエピズーコリー(付着型動物散有)である。一斉開花枯死は大変大規模に起こり...

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Published inTropics Vol. 7; no. 1+2; pp. 153 - 159
Main Authors 伊沢, 紘生, 小林, 幹夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本熱帯生態学会 1997
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ISSN0917-415X
1882-5729
DOI10.3759/tropics.7.153

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Summary:草本性タケ類の1種Pharus virescesは1回繁殖型で南米コロンビア国のティニグアおよびマカレナ国立公園の熱帯雨林の林床優占種である。1990年10月から91年1月にかけ,ティニグア国立公園ドゥダ川右岸にあるマカレナ生態学研究センター周辺の熱帯雨林において一斉開花枯死が観察されたのを機会に個体群の回復過程を継続して調査した結果,1995年10月から96年1月にかけ再び一斉開花枯死を起こした。種子の散布型は籾の一部が鈎型の短く硬い毛で覆われ,ヒトの衣服や動物の体表に付着して果序ごと,あるいは籾の状態で運ばれるいわゆるエピズーコリー(付着型動物散有)である。一斉開花枯死は大変大規模に起こり,このような現象を起こす植物の存在について,マカレナ市およびその上流域の両国立公園内に入植している人々の間では「Barba tigre=ジャガーの髭」と呼ばれて良く知られていた。我々は両一斉開花期にこの植物の果序や籾を付けているすべての動物の同定を試みると同時に,一斉開花を起こしている植物個体群の分布域について,我々自身の直接踏査と流域住民に対する聞き取り調査によって調べた。その結果,哺乳動物では偶蹄目3種食肉目7種有袋目2種,霊長目S種,げっ歯目6種および貧歯目3種の合計26種および鳥類12種を確認した。また,分布域は標高500m以下のグァジャベロ川とマカレナ山塊の間に広がる低地熱帯雨林の少なくとも718km2の範囲に広がっていることが推定された。このような広大な地域になぜ一斉開花が周期的に繰り返されるのかは謎であるが,その要因として,5年を寿命とした1回繁殖型の生活型を持つこと,乾季の最中に生産された種子は約3ヵ月間の休眠性を有し,雨季の始まりとともに一斉に発芽すること,多種多数の動物によって短期間に急速に広範囲の地域に種子が散布されること,の3点が挙げられる。
ISSN:0917-415X
1882-5729
DOI:10.3759/tropics.7.153