職業性粉じん暴露の長期影響
肺がんの危険因子として粉じんの長期濃厚暴露が支持されているが,いずれも後向き研究によるものが多い. 筆者らは1950年代のウィーンにおける粉じん暴露労働者を前向き研究方法で疾患との関連を観察した.またオーストリア労働者補償協会の資料からオーストリアにおける珪肺患者の肺がんによる死亡の相対危険を1955年から1979年まで5年ごとに算出したので報告する. まず粉じん暴露者と非暴露者については, 1950年から1960年の間にウィーンの1,089工場における健康診断受診者のファイルから,粉じん作業者と非粉じん作業者のコホートを設定し, 1980年まで観察した.粉じん暴露群の対象は,鋳物,金属,陶磁...
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Published in | 産業医学 Vol. 30; no. 5; pp. 362 - 370 |
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Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
社団法人 日本産業衛生学会
1988
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ISSN | 0047-1879 1881-1302 |
DOI | 10.1539/joh1959.30.362 |
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Summary: | 肺がんの危険因子として粉じんの長期濃厚暴露が支持されているが,いずれも後向き研究によるものが多い. 筆者らは1950年代のウィーンにおける粉じん暴露労働者を前向き研究方法で疾患との関連を観察した.またオーストリア労働者補償協会の資料からオーストリアにおける珪肺患者の肺がんによる死亡の相対危険を1955年から1979年まで5年ごとに算出したので報告する. まず粉じん暴露者と非暴露者については, 1950年から1960年の間にウィーンの1,089工場における健康診断受診者のファイルから,粉じん作業者と非粉じん作業者のコホートを設定し, 1980年まで観察した.粉じん暴露群の対象は,鋳物,金属,陶磁器・ガラス工場,その他珪土を含むいわゆる“不活性”ダストの暴露を受ける工場で働く40歳以上の男で観察開始時1,630人であった.対照としての非粉じん暴露群と観察時期,年齢,喫煙事項をマッチさせ同数選定した.観察総数は1980年までで48,960人年,追跡可能率は99.7%であった.暴露群と非暴露群の疾患別の死亡率の比較は60歳以降の生存を指標として生命表法により, Mantel-CoxとBreslowの二方法により検定した. 60歳以降の生存率は非暴露群に比べて暴露群は肺がん,胃がん,珪肺,気腫,気管支炎,喘息の死亡により有意に減少したが,循環器疾患による死亡では影響を受けなかった.特に60歳以降の死亡には肺がんによる死亡の増加がみられた. つぎにオーストリア労働者補償協会の資料による解析では1955年から1979年における珪肺患者の非珪肺患者に対する肺がんによる死亡の相対危険は平均1.41であり,信頼区間は1.21~1.64であった. 以上,粉じんの長期濃厚暴露の影響,特に肺がんとの関連について報告した. |
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ISSN: | 0047-1879 1881-1302 |
DOI: | 10.1539/joh1959.30.362 |