施設入所高齢者と施設職員との間の主観的ニーズに関する認識の違い
目的 効果的で適切な施設ケアを行うためには,ケア受領者が感じている困り事や要望を的確に把握し,ケア提供の際にケア受領者が感じているニーズをできるかぎり反映していくことが必要となる。本研究では,施設入所高齢者が感じている主観的ニーズについて,施設入所高齢者と施設職員との間でどのような認識の違いがあるのかを検討することとした。 方法 調査方法は,調査票を用いた横断的調査で,調査対象者は,6 箇所の特別養護老人ホームの施設入所高齢者と施設職員である。施設入所高齢者と施設職員とのマッチングを行い,そのペア数は85ペアで,その85人が最終的な分析の対象者となった。補足的に,一部の施設職員に対してヒアリン...
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Published in | 日本公衆衛生雑誌 Vol. 49; no. 9; pp. 911 - 921 |
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Main Authors | , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本公衆衛生学会
2002
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Subjects | |
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Summary: | 目的 効果的で適切な施設ケアを行うためには,ケア受領者が感じている困り事や要望を的確に把握し,ケア提供の際にケア受領者が感じているニーズをできるかぎり反映していくことが必要となる。本研究では,施設入所高齢者が感じている主観的ニーズについて,施設入所高齢者と施設職員との間でどのような認識の違いがあるのかを検討することとした。 方法 調査方法は,調査票を用いた横断的調査で,調査対象者は,6 箇所の特別養護老人ホームの施設入所高齢者と施設職員である。施設入所高齢者と施設職員とのマッチングを行い,そのペア数は85ペアで,その85人が最終的な分析の対象者となった。補足的に,一部の施設職員に対してヒアリング調査を実施した。調査項目は,基礎属性,ADL,主観的ニーズである。主観的ニーズの測定尺度は,身体および生活維持,心理,社会関係の 3 領域(8 下位概念)で構成され,信頼性と妥当性を検討し,妥当なものであると判断された。分析は,カッパ係数による一致度分析や t 検定等で行った。 結果 施設入所高齢者と施設職員との間の主観的ニーズについての一致度分析においては,全体的に一致度が低かった。しかし,8 下位概念のなかで,「体に関する困難感」,「食事状況」,「社会的活動」については,わずかながら両者間に多少の一致が見られた。t 検定の結果においては,8 下位概念すべてにおいて両者間で有意な差が見られ,施設入所高齢者よりも施設職員の方が主観的ニーズを過大査定していた。ADL の程度別に t 検定を行った結果,ADL の低群における「食事状況」以外のすべてにおいて両者間に有意な差が見られた。両者の順位付け比較分析においては,7 つの下位概念で両者の順位は類似傾向を示していた。 結論 施設職員が施設入所高齢者の主観的ニーズを的確に把握することは容易ではないことが示された。しかし,主観的ニーズの下位概念の順位付けを見ると,施設職員は施設入所高齢者の主観的ニーズをおおむね把握していたと考えられる。今後の課題として,主観的ニーズに関する認識が,どうして施設入所高齢者と施設職員との間でかなり異なるのかを解明し,施設職員が施設入所高齢者の主観的ニーズを的確に把握するための方策を示していくことが必要であると考える。 |
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ISSN: | 0546-1766 2187-8986 |
DOI: | 10.11236/jph.49.9_911 |