レセプト全傷病登録による糖尿病の合併症の医療費分析
目的 近年,糖尿病患者の医療費が増加しているなか,糖尿病の合併症が医療費に及ぼす影響を定量的に検証することは,医療費を適正化するための対策を検討する上で重要である。これまでの国内における糖尿病の合併症の医療費分析は少数の施設に限定され,地域住民を対象にしたものはなかった。また,従来の診療報酬明細書により把握できる傷病は主傷病のみであったため,合併症の正確な把握は困難であり,医療費に及ぼす影響も十分に把握できなかった。この問題点を打開し,糖尿病とその合併症の保有状況を把握し,医療費構造を明らかにするには,主傷病だけではなくすべての傷病を診療報酬明細書に記載することが望まれる。本研究の目的は,地域...
Saved in:
Published in | 日本公衆衛生雑誌 Vol. 52; no. 7; pp. 652 - 663 |
---|---|
Main Authors | , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本公衆衛生学会
2005
|
Subjects | |
Online Access | Get full text |
ISSN | 0546-1766 2187-8986 |
DOI | 10.11236/jph.52.7_652 |
Cover
Summary: | 目的 近年,糖尿病患者の医療費が増加しているなか,糖尿病の合併症が医療費に及ぼす影響を定量的に検証することは,医療費を適正化するための対策を検討する上で重要である。これまでの国内における糖尿病の合併症の医療費分析は少数の施設に限定され,地域住民を対象にしたものはなかった。また,従来の診療報酬明細書により把握できる傷病は主傷病のみであったため,合併症の正確な把握は困難であり,医療費に及ぼす影響も十分に把握できなかった。この問題点を打開し,糖尿病とその合併症の保有状況を把握し,医療費構造を明らかにするには,主傷病だけではなくすべての傷病を診療報酬明細書に記載することが望まれる。本研究の目的は,地域住民を対象に,全傷病登録による国民健康保険診療報酬明細書を用いて,糖尿病の合併症が医療費に及ぼす影響を分析することである。 方法 調査対象は宮城県内 7 町における国民健康保険加入者全員の中から平成14年 5 月 1 日から31日までの間に医療機関を受診した17,994人のうち,糖尿病または糖尿病性傷病名が診療報酬明細書に記載されている2,999人である。診療報酬明細書により性,年齢,傷病名,受療状況(入院・外来の各日数)と入院・外来・調剤の各費用を把握し,糖尿病の合併症を有しない群と,有する群の 1 人当たり 1 か月医療費を,性,年齢を補正した共分散分析により比較した。続いて,性,年齢に加えて,それぞれの合併症の有無を補正し比較を行った。 結果 糖尿病患者全体において,性,年齢,それぞれの合併症を補正し,合併症を有しない群と有する群で 1 人当たり 1 か月医療費を比較すると,腎症(55,421円,1.71倍),網膜症(44,265円,1.65倍),脳血管障害(22,296円,1.33倍),心疾患(51,726円,1.88倍)では合併症を有する群で有意に高かった。一方,神経障害(8,771円,0.88倍)では有意差を認めなかった。糖尿病患者の 1 か月医療費総額において,腎症は7.1%,網膜症は4.9%,脳血管障害は5.5%,心疾患は17.7%を占めていた。 結論 糖尿病の合併症のなかで,医療費に影響を及ぼしたのは糖尿病性腎症,糖尿病性網膜症,脳血管障害,心疾患であった。これらの合併症を予防することで,糖尿病医療費の顕著な低下を期待されることが示唆された。 |
---|---|
ISSN: | 0546-1766 2187-8986 |
DOI: | 10.11236/jph.52.7_652 |