生活の継続にむけた労働集約型農業――スリランカのマワタウェワ村における労働交換の事例
多くの途上国では農村の人口増加が環境問題の原因の一つとなっている。スリランカでも同様,人口増加によって発生した土地農民が,肥沃で広い森林地帯で農地開墾を行うことによって,周辺の生態系を大きく変化させつつある。とくに,北中部のドライゾーンにある農村では,商品作物としてのトウモロコシ価格の高騰にともなって,森林の中に虫食い状態にトウモロコシ畑が開墾されるようになり,森林が減少するだけではなく森林を生息地としていた野生動物と人間の衝突も増加している。このような問題を解決するために,これまで,農外就労を促進するか,開墾に関する規制を強化して新たな開墾を抑制する方法が指摘され,政府も保護区の設定や法整備...
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Published in | 環境社会学研究 Vol. 24; pp. 121 - 136 |
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Main Authors | , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
環境社会学会
05.12.2018
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Subjects | |
Online Access | Get full text |
ISSN | 2434-0618 |
DOI | 10.24779/jpkankyo.24.0_121 |
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Summary: | 多くの途上国では農村の人口増加が環境問題の原因の一つとなっている。スリランカでも同様,人口増加によって発生した土地農民が,肥沃で広い森林地帯で農地開墾を行うことによって,周辺の生態系を大きく変化させつつある。とくに,北中部のドライゾーンにある農村では,商品作物としてのトウモロコシ価格の高騰にともなって,森林の中に虫食い状態にトウモロコシ畑が開墾されるようになり,森林が減少するだけではなく森林を生息地としていた野生動物と人間の衝突も増加している。このような問題を解決するために,これまで,農外就労を促進するか,開墾に関する規制を強化して新たな開墾を抑制する方法が指摘され,政府も保護区の設定や法整備をおこなっているが,現在のところ効果は得られていない。というのも,都市部から離れ公共交通機関の乏しいドライゾーンの農村では農外収入の機会は限られているほか,開墾した土地の所有権を認めないとした国の法よりも,「伝統的に村が管理してきた水田や共有で利用されてきた焼畑用地以外の森林地帯は,開墾した人の農地として利用権が認められる」,とする暗黙の慣習的ルールのほうが強く作用しているからである。その結果,農家たちは罪の意識なく開墾を続けている。本稿でとりあげるのは,このような状況の中で,土地利用型(広い土地を必要とする)作物であるトウモロコシから労働集約型作物であるトウガラシへと生産物を転換し,少ない農地で多くの人口を養うための新たなシステムの構築に成功したマワタウェワ村(Mawathawewa)の事例である。トウガラシ栽培は,土地不足や農家の所得向上対策として実験的に導入されたものであるが,マワタウェワ村は。唯一それが定着した例でもある。本研究では,この成功の要因として労働交換システムに注目した。かつて北中部の農村地域には,野生動物との葛藤を防ぐための集団的な畑地利用のシステムや,水田稲作に関する労働交換慣行が存在していたが,農業形態の変化や世帯数増加,貨幣経済の導入にともなって徐々にみられなくなり,現在では,水田を中心とした一部の農地にしか適用されていない。その中でマワタウェワ村は,商品作物用の畑地にも労働交換システムを導入し,労働集約型農業への転換に成功したのである。その要因として,事例からは,村のメンバーが現在においても親族関係で結ばれた親密な関係であることに加え,自給作物を対象として行われてきた労働交換慣行のうえに商品作物生産や現金の介在を組み込んだシステム,例えばジェンダーや社会的立場の差異をこえて個人の労働力の平等を原則とした交換システムをつくりあげたなど,現在の農業形態に適応したかたちをつくることによって,家族数や所有面積など世帯の状況に応じた参加が可能になったことがあげられる。古くからの労働慣行が続けられている土地をもたない農民が,村での生活を継続できるように生み出されたこのシステムは,チリの生産が高収益をあげるようになったため,森林の開墾抑制にも貢献している。 |
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ISSN: | 2434-0618 |
DOI: | 10.24779/jpkankyo.24.0_121 |