ビギナーズセミナー10 再生医療の現状と免疫学的な問題

  iPS細胞は「自分」の体細胞からつくれることが大きな利点であり,当初は「自家移植」としての利用が想定されていた.しかし,現在は,iPS細胞を用いた再生医療は,iPS細胞ストック事業を中心として,「他家移植」を軸に進められている.iPS細胞ストック事業では,HLAハプロタイプのホモ接合型のiPS細胞が作製されている.ホモの再生組織をHLAハプロタイプヘテロの患者に移植した場合,アロのHLAに反応するT細胞による拒絶反応は起こりにくいと期待できる.しかし,他家移植ではマイナー組織適合抗原の不一致は避けられない.さらに,HLAホモ → ヘテロ移植の場合は,NK細胞による免疫反応が起こりうるという...

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Published in日本臨床免疫学会会誌 Vol. 39; no. 4; p. 341
Main Author 河本, 宏
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本臨床免疫学会 2016
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ISSN0911-4300
1349-7413
DOI10.2177/jsci.39.341

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Summary:  iPS細胞は「自分」の体細胞からつくれることが大きな利点であり,当初は「自家移植」としての利用が想定されていた.しかし,現在は,iPS細胞を用いた再生医療は,iPS細胞ストック事業を中心として,「他家移植」を軸に進められている.iPS細胞ストック事業では,HLAハプロタイプのホモ接合型のiPS細胞が作製されている.ホモの再生組織をHLAハプロタイプヘテロの患者に移植した場合,アロのHLAに反応するT細胞による拒絶反応は起こりにくいと期待できる.しかし,他家移植ではマイナー組織適合抗原の不一致は避けられない.さらに,HLAホモ → ヘテロ移植の場合は,NK細胞による免疫反応が起こりうるという問題点もある.NK細胞は,HLA分子によって抑制されるシグナルを受けるレセプターを発現しており,ヘテロのレシピエントのNK細胞は,ホモの移植片が「一部のHLAが欠損している」ことを感知できるからである.これらの仕組みにより,他家移植の移植片は免疫抑制剤を使わない限りは拒絶される運命にある.生命に関わるような臓器の再生であれば免疫抑制剤の服用もやむを得ないといえるが,再生医療ではそうでもないケースも数多い.にもかかわらず,再生医療の領域では移植免疫学的な研究はあまり盛んではないように思われる.免疫抑制剤を使わずに免疫寛容を誘導するような方法の開発が望まれるところである.
ISSN:0911-4300
1349-7413
DOI:10.2177/jsci.39.341