潜在的に両側長胸神経麻痺が疑われた一症例を経験して
【はじめに】 長胸神経麻痺は報告が少なく稀な疾患である。今回、強い疼痛とともに挙上困難を呈し、両側長胸神経麻痺が疑われた症例を経験したため報告する。 【症例紹介】 16歳 男性 スポーツ:ラグビー 診断名:右動揺肩 現病歴:平成16年9月タックルの際、右肩前方を強打し疼痛出現。その後も練習していたが、疼痛増強し挙上困難となる。12月当院受診。 【評価・経過】 ○初期評価 1)ROM:屈曲80°、外転80° 2)MMT:前鋸筋0、以外疼痛強く3 3)腱板筋力:疼痛強く測定不可(HOGGAN社製MICROFET2) 4)疼痛:4部位(肩上部・前面・後面、肩甲骨外側) 5)X-p所見:正面にて肩甲骨...
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Published in | 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2005; p. 104 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
九州理学療法士・作業療法士合同学会
2005
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu |
Subjects | |
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ISSN | 0915-2032 2423-8899 |
DOI | 10.11496/kyushuptot.2005.0.104.0 |
Cover
Summary: | 【はじめに】 長胸神経麻痺は報告が少なく稀な疾患である。今回、強い疼痛とともに挙上困難を呈し、両側長胸神経麻痺が疑われた症例を経験したため報告する。 【症例紹介】 16歳 男性 スポーツ:ラグビー 診断名:右動揺肩 現病歴:平成16年9月タックルの際、右肩前方を強打し疼痛出現。その後も練習していたが、疼痛増強し挙上困難となる。12月当院受診。 【評価・経過】 ○初期評価 1)ROM:屈曲80°、外転80° 2)MMT:前鋸筋0、以外疼痛強く3 3)腱板筋力:疼痛強く測定不可(HOGGAN社製MICROFET2) 4)疼痛:4部位(肩上部・前面・後面、肩甲骨外側) 5)X-p所見:正面にて肩甲骨下方回旋し臼蓋傾き10°、最大挙上にて肩甲骨上方回旋わずかに認め臼蓋傾き10° 6)造影所見:関節容量拡大、スキー帽状所見 ○初期評価より強い疼痛と動揺肩による関節弛緩性認められ、右前鋸筋麻痺が疑われたため、筋電図学的検査を大学病院に依頼した。疼痛に対し関節内・肩峰下滑液包ブロックを行い疼痛自制内となった。筋電図学的検査結果を待たず、前鋸筋に対する神経筋再教育、PNF、腱板筋強化開始し、1週間で改善を認め中間評価の状態にまで改善した。 ○中間評価(初期評価より1週間) 1)ROM:屈曲150°、外転150° 2)MMT:前鋸筋3、以外4 3)腱板筋力:外旋・内旋・肩甲骨面挙上30°健側比約90% 4)疼痛:1部位(肩上部) ○中間評価より疼痛が主要因となり挙上困難を呈していたことが示唆されたが、依然右前鋸筋麻痺は認められた。その矢先、筋電図学的検査結果は両側長胸神経麻痺による前鋸筋の神経原性筋萎縮であり、当初の右前鋸筋麻痺は否定され神経疾患による両側長胸神経麻痺が疑われた。その後最終評価の状態まで回復し、スポーツ復帰も果たした。 ○最終評価(初期評価より4週間) 1)ROM:屈曲170°、外転170° 2)MMT:前鋸筋4、以外5 3)腱板筋力:外旋・内旋・肩甲骨面挙上30°健側比約100% 4)疼痛:消失 【考察】 本症例は、初期評価時に右前鋸筋麻痺が疑われたが、疼痛の軽減によりわずか1週間で改善を示したため、前鋸筋麻痺の回復とは考えにくく、筋電図学的検査結果より病前からの神経疾患による両側長胸神経麻痺の存在が示唆された。その結果、病前より両側長胸神経麻痺を呈するもADL・スポーツに支障にない程度であったが、右肩打撲を契機とした強い疼痛による心因性要素が、前鋸筋筋活動の低下をさせていたことが考えられた。また、最も問題となった強い疼痛の原因は、動揺肩による肩甲上腕関節の不安定性であり、神経筋再教育による前鋸筋活動の向上が肩甲帯の安定化、腱板筋強化による肩甲上腕関節の安定化が改善につながった。 今後は、原因追及に至らなかった両側長胸神経麻痺を経過観察により検討する必要がある。 |
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ISSN: | 0915-2032 2423-8899 |
DOI: | 10.11496/kyushuptot.2005.0.104.0 |