左鼠径部広範切除術により大腿四頭筋不全に至った症例の歩行分析

【はじめに】  悪性腫瘍に対する治療は、化学療法や手術手技の発達等により、切断術は激減し患肢温存手術が主流となっている。患肢が温存されることで切断術に比べ日常生活動作(以下ADL)や歩行時のエネルギー効率において遜色無く、さらに心理面においても好影響を与えている。  今回、左鼠径部滑膜肉腫にて左鼠径部広範切除術を施行した症例の歩行解析を行ったので報告する。 【症例】  30歳代男性。左鼠径部滑膜肉腫に対し、左鼠径部の広範切除術(大腿直筋・縫工筋は起始部より切離、大腿神経は鼠径部より中枢側で切断)、大腿動静脈再建(人工血管)、腹直筋皮弁術を施行した。手術後3ヶ月経過時には一本杖にてADL自立、独...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2008; p. 142
Main Authors 井上, 仁, 鈴木, 綾香, 長田, 沙織, 杉本, 尚美, 明石, 理佐, 津村, 弘, 片岡, 晶志, 松本, 裕美, 大津, 麻実, 中村, 佳子, 川上, 健二
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2008
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
Subjects
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2008.0.142.0

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Summary:【はじめに】  悪性腫瘍に対する治療は、化学療法や手術手技の発達等により、切断術は激減し患肢温存手術が主流となっている。患肢が温存されることで切断術に比べ日常生活動作(以下ADL)や歩行時のエネルギー効率において遜色無く、さらに心理面においても好影響を与えている。  今回、左鼠径部滑膜肉腫にて左鼠径部広範切除術を施行した症例の歩行解析を行ったので報告する。 【症例】  30歳代男性。左鼠径部滑膜肉腫に対し、左鼠径部の広範切除術(大腿直筋・縫工筋は起始部より切離、大腿神経は鼠径部より中枢側で切断)、大腿動静脈再建(人工血管)、腹直筋皮弁術を施行した。手術後3ヶ月経過時には一本杖にてADL自立、独歩安定、階段昇降は交互型にて可能であった。下肢筋力はMMTにて左大腿四頭筋0、両股内転筋4、左股屈筋3、その他は5であった。 【方法】  術後3ヶ月の独歩時の下肢筋活動をNoraxon社製MyoSystem筋電計を使用し測定した。測定筋は両側の大殿筋、ハムストリングス、大腿直筋、内側広筋、外側広筋、腓腹筋とした。歩行時における1)両下肢の最大筋収縮値、2)正常歩行との筋電学的相違について比較検討した。 【結果】  1)最大筋収縮値:左下肢筋の最大筋収縮値は右側に比べ、大殿筋は103.33%、ハムストリングスは52.43%、内側広筋は37.97%、外側広筋は30.89%、腓腹筋は43.86%と大殿筋以外は低下していた。左大腿直筋は正常な筋収縮波形は認められなかった。  2)正常歩行との比較:右下肢には特に違いは認められなかった。左下肢は大殿筋以外、全体的に筋活動が低下しており、立脚期にハムストリングス・腓腹筋の持続的筋収縮が認められた。 【考察】  本症例は立脚中期に膝関節ロッキング、機能的膝伸展機構を利用していると考えた。そのため、代償的に大殿筋・ハムストリングス・腓腹筋の筋活動が大きいと予想した。しかし、実際の最大筋収縮値において大殿筋は健側と同等であり、その他は右側に比べ左側が有意に低下していた。立脚中期の膝関節を安定させるために大殿筋を中心に機能的膝伸展機構を働かせていたと考えられた。  また、文献上膝蓋骨切除後における膝装具無しでの独歩時筋活動において、大殿筋・大腿二頭筋・腓腹筋の持続的活動が認められたとの報告があり、本症例についてもハムストリングス・腓腹筋は立脚期に持続的な筋活動が認められていた。  本症例は患側の立脚期に体重心を膝関節上に乗せ、膝関節を伸展位にしようとするのに対し抵抗を与え屈曲位を保持させる訓練を実施した。さらに、本症例は30歳代男性と若く運動機能が高いことから、階段昇降が交互型にて可能である等、高度な歩行能力が得られたと考えられた。
Bibliography:142
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2008.0.142.0