手指外傷例における修復組織の治癒過程を考慮した術後セラピィ

【はじめに】  当院では、手指外傷例に対し早期からの運動療法やsplint療法にて拘縮の予防・改善を試みている。しかし重度外傷例では損傷部の長期安静を余儀なくされ、拘縮を呈することも少なくない。今回そのような外傷にて強固な拘縮が予測された1例に対し、修復組織の治癒過程に応じたセラピィを経験したので考察をふまえて報告する。 【症例紹介・手術所見】  69歳、男性で職業は大工である。草刈り機で受傷し、左第5中手骨頚部骨折・骨欠損、総指および固有小指伸筋腱断裂・欠損の診断にて同日、髄内固定術および腱縫合術を施行した。しかし両組織ともに欠損しており、骨接合部は不安定で腱縫合部は過緊張状態にあった。 【...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2008; p. 155
Main Authors 油井, 栄樹, 野中, 信宏, 貝田, 英二, 田崎, 和幸, 山田, 玄太, 坂本, 竜弥
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2008
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
Subjects
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2008.0.155.0

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Summary:【はじめに】  当院では、手指外傷例に対し早期からの運動療法やsplint療法にて拘縮の予防・改善を試みている。しかし重度外傷例では損傷部の長期安静を余儀なくされ、拘縮を呈することも少なくない。今回そのような外傷にて強固な拘縮が予測された1例に対し、修復組織の治癒過程に応じたセラピィを経験したので考察をふまえて報告する。 【症例紹介・手術所見】  69歳、男性で職業は大工である。草刈り機で受傷し、左第5中手骨頚部骨折・骨欠損、総指および固有小指伸筋腱断裂・欠損の診断にて同日、髄内固定術および腱縫合術を施行した。しかし両組織ともに欠損しており、骨接合部は不安定で腱縫合部は過緊張状態にあった。 【術後セラピィ】  術後3週間は手関節背屈位、小指MP・PIP関節伸展0度のsplint固定を行い、術後3週経過時から自動伸展運動を開始した。術後4週経過時にsplintのMP関節の屈曲角度を30度に変更し、自他動運動を行わず、指屈筋の緊張を利用してMP関節屈曲可動域の増加を図った。術後5週経過時のレントゲンにて仮骨形成が認められたため、セラピストによる徒手的なMP・PIP関節各関節単独での軽い他動屈曲運動と牽引力を調節したMP関節屈曲用動的splintを導入した。術後6週経過時にはその動的splintをMP・PIP関節同時屈曲用に変更し、漸次牽引力を強めていった。また筋力増強訓練を開始した。 【結果】  小指の最終可動域はMP・PIP・DIP関節の順に屈曲75・95・50度、伸展-10・-15・0度であり、%TAMは88%であった。握力は右32kg左26kgであった。また骨接合部の著明な骨転位は認められなかった。 【考察】  本症例は職業上強いgripができることをニードとしていた。しかし、MP関節は中手骨頭の構造上伸展拘縮をきたしやすいこと、また本症例の損傷組織の修復術からも伸展拘縮が必発することが危惧された。そのためセラピィにおいては、骨接合部および腱縫合部の治癒過程を考慮しながら特にMP関節の屈曲可動域獲得を重視した。今回術後4週経過時に用いた手関節背屈位MP関節30度屈曲splintは、自他動屈曲運動よりも軽い負荷で可動域の改善を行うために指屈筋の緊張を利用したものであり、今回のような修復組織に対してより愛護的だったのではないかと考えている。また修復組織の治癒過程に応じ、運動療法やsplint療法を随時変化・導入したことも可動域獲得に繋がったといえる。今回のような骨折部の不安定性や腱縫合部の過緊張がある例では、再転位・再断裂の危険性が高いため、通常のプロトコールではなく状態に応じた運動やsplintの選択が必要であると考えられた。
Bibliography:155
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2008.0.155.0