血友病患者における人工膝関節全置換術後の理学療法の経験

【はじめに】  血友病性関節症とは、繰り返す関節内血腫により滑膜炎が惹起され、関節軟骨を破壊し進行する変形性関節症である。学童期に発症し、成人血友病患者では高頻度に末期関節症が見られ、ADLやQOLの大きな障害因子となっている。その中でも膝関節は好発部位の一つである。今回、血友病患者の人工膝関節全置換術(以下TKA)後の理学療法の経過について報告する。 【対象と方法】  対象は2006年5月~2007年3月に当院でTKAを施行された男性血友病患者4例5膝、平均年齢38.5歳(30~43歳)、術後観察期間は平均5.3ヵ月(2~10ヶ月)であった。それらの症例において、可動域制限出現からの期間、入...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 p. 149
Main Authors 外間, 明海, 新城, 宏隆, 比嘉, 淳, 大城, 直人, 長嶺, 覚子, 上地, 一幸, 知花, 由晃, 金谷, 文則
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2007
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Summary:【はじめに】  血友病性関節症とは、繰り返す関節内血腫により滑膜炎が惹起され、関節軟骨を破壊し進行する変形性関節症である。学童期に発症し、成人血友病患者では高頻度に末期関節症が見られ、ADLやQOLの大きな障害因子となっている。その中でも膝関節は好発部位の一つである。今回、血友病患者の人工膝関節全置換術(以下TKA)後の理学療法の経過について報告する。 【対象と方法】  対象は2006年5月~2007年3月に当院でTKAを施行された男性血友病患者4例5膝、平均年齢38.5歳(30~43歳)、術後観察期間は平均5.3ヵ月(2~10ヶ月)であった。それらの症例において、可動域制限出現からの期間、入院期間、ヒト免疫不全ウイルス(以下HIV)とC型肝炎ウイルス(以下HCV)の感染症有無、罹患関節部位、術後の合併症有無、術前後の関節可動域、術前後の移動能力、就職状況について検討した。 【結果】  可動域制限は3~10年間(平均7.0年)、入院期間28~43日間(平均32.8日)であった。4例中HIV陽性3例、HCV陽性3例、両者とも陽性2例であり、他関節の障害部位は肘関節3例、足関節3例、股関節1例、肩関節1例であった。術後合併症は関節血腫1例、足底部の痺れ1例であり、感染は見られていない。可動域は、術前伸展-40°~-15°(平均-26°)屈曲80°~135°(平均107°)から、術後1ヶ月時伸展-5°~0°(平均-2°)屈曲95°~120°(平均109°)となった。術前は全例T字杖歩行であったが、術後1例を除き独歩可能となった。術前および術後の就職者はともに3例。 【考察】  術後理学療法を実施する上で、出血(関節内や筋肉内出血など)には十分な注意が必要である。実際患者自身もその点を不安に思っていた。血友病患者の場合は出血のリスクを軽減するため、強制的な治療プログラムより緩やかな治療プログラムが望ましいと言われている。しかし血中凝固因子活性が適切なレベルに維持されていれば、非血友病患者と同様な治療が行なえる。今回は術後に必要な補充療法が行なわれたため、一般的なTKA後の患者と同様の理学療法を積極的に進めることができた。膝の理学療法の妨げにはならなかったが、2例は既存の足関節障害による痛みを訴えた。以上の事からも治療上主治医と連携を取ること、患者の不安を取り除くことが重要であった。また今回の症例では、術前制限されていた活動や行動範囲が拡大され、満足感も得られている。その影響なのか30代の1例は、自己判断で柔道を行い関節血腫や他の関節の疼痛を招いた。活動性の高い年代ということに注意すべきであり、運動制限の指導も必要である。今後は症例を重ね、患者教育、運動内容や時期などを含めた、中・長期成績を検討していきたい。
Bibliography:131
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2007.0.149.0