細胞死を標的とした臓器保存法の改善と展望

虚血再灌流肺傷害による細胞死は移植後のグラフト機能ならびに治療成績に影響をおよぼすことから、その発生を抑制する保存方法の開発が必要である。筆者らはこれまで、肺移植における虚血再灌流肺傷害にネクロプトーシスが関与することを報告しており、その主要なシグナル因子であるRIPK1の活性化を抑制することでグラフトを改善することを報告した。しかし、臓器保存中の薬剤添加による治療のみでは臓器機能の改善が不十分という課題が残っている。その課題を克服する方法としてカルパイン阻害薬(ALLN)に着目し、ラット肺移植モデルを用いて効果を検証したところ、ドナー肺への投与(保存灌流液への添加)のみで虚血再灌流肺傷害に対...

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Published inJapanese Journal of Transplantation Vol. 57; no. Supplement; p. s211_2
Main Authors 大瀬, 尚子, 狩野, 孝, 松井, 優紀, 宮下, 裕大, 舟木, 壮一郎, 木村, 亨, 新谷, 康, 福井, 絵里子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本移植学会 2022
The Japan Society for Transplantation
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ISSN0578-7947
2188-0034
DOI10.11386/jst.57.Supplement_s211_2

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Summary:虚血再灌流肺傷害による細胞死は移植後のグラフト機能ならびに治療成績に影響をおよぼすことから、その発生を抑制する保存方法の開発が必要である。筆者らはこれまで、肺移植における虚血再灌流肺傷害にネクロプトーシスが関与することを報告しており、その主要なシグナル因子であるRIPK1の活性化を抑制することでグラフトを改善することを報告した。しかし、臓器保存中の薬剤添加による治療のみでは臓器機能の改善が不十分という課題が残っている。その課題を克服する方法としてカルパイン阻害薬(ALLN)に着目し、ラット肺移植モデルを用いて効果を検証したところ、ドナー肺への投与(保存灌流液への添加)のみで虚血再灌流肺傷害に対する治療効果を証明することができた。細胞死としてはアポトーシスよりもネクロプトーシスをより強く制御しているものと考えられた。その効果発現のメカニズムは、従来報告されているRIPK1-RIPK3-MLKL経路を主体としたdeath receptor-dependent pathway ではなく、calpain-STAT3-RIPK 経路を主体とした death receptor-independent pathway を制御することで虚血再灌流後のネクロプトーシスを抑制していると考えられる。このような臓器保存法の改善を臨床へのフィードバックにつなげることが次の課題である。最近の知見と現在我々がすすめている研究成果を含めて報告したい。
ISSN:0578-7947
2188-0034
DOI:10.11386/jst.57.Supplement_s211_2