熊本市こころの健康センターにおける就労準備デイ・ケアおよび個別フォローアップの取り組み

【はじめに】 精神障がい者にとって“働くこと”はリカバリーの一つであり、就労へのニーズは年々増加している。その一方で、就職後の定着が難しく、就労継続に向けた支援が重要となってくる。 熊本市こころの健康センターでは、統合失調症を主な対象に、一般就労を目指した「就労準備デイ・ケア(以下、就労デイ)」を平成24年10月から実施している。今回、一症例を紹介してから就労デイの取り組みを報告する。【症例紹介】 30代前半の統合失調症の女性。看護師として病院勤務していた時に発症。入退院後は被害妄想、意欲低下の影響もあり自宅で母親と暮らしていたが、母親の定年が近くなってきたことで、働かなければいけないと思うよ...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2016; p. 179
Main Authors 南, 悦子, 井形, るり子, 長谷川, 典子, 吉住, 崇, 若松, 成子, 牛島, 有加, 波山, 勝見
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2016
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
Subjects
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2016.0_179

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Summary:【はじめに】 精神障がい者にとって“働くこと”はリカバリーの一つであり、就労へのニーズは年々増加している。その一方で、就職後の定着が難しく、就労継続に向けた支援が重要となってくる。 熊本市こころの健康センターでは、統合失調症を主な対象に、一般就労を目指した「就労準備デイ・ケア(以下、就労デイ)」を平成24年10月から実施している。今回、一症例を紹介してから就労デイの取り組みを報告する。【症例紹介】 30代前半の統合失調症の女性。看護師として病院勤務していた時に発症。入退院後は被害妄想、意欲低下の影響もあり自宅で母親と暮らしていたが、母親の定年が近くなってきたことで、働かなければいけないと思うようになり、就労デイを利用した。【支援経過および結果】 就労デイ(精神科ショートケア、1クール:6ヶ月、週2日実施)開始から1ヶ月間は心理教育(疾病・服薬理解)やWRAP(Welless Recovery Action Plan)など、自己管理の方法を考える生活支援プログラムを、2~4ヶ月目は認知機能リハビリテーション(以下、認知機能リハ)(パソコンソフトを使用したトレーニング、週2回、約60分、全24回及び、言語グループ、週1回、約60~90分、全12回)を、5~6ヶ月目は就労準備プログラム(履歴書作成、面接練習、就労講座)を実施した。 その結果、BACS-J(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia Japanese version)を用いた認知機能検査では、言語性記憶(-1.34→0.71)と遂行機能(-1.15→-0.15)、総合得点(-2.04→-0.86)で改善がみられた。また就労デイを通した本人の変化として、自分自身の状態を具体的に伝える場面が増えてきた。 就労支援では、資格を生かし、体調に合わせて働きたいという希望に沿って、就労デイと並行してハローワークへの同行や個別面接練習等の支援を行った結果、障害者枠で看護師として就職先が決定した。就職後も就労デイ修了者の集まりに参加したり、個別でも連絡や職場との調整に入るなどの就労継続に向けた支援も行い、現在も就労継続中である。【考察】 Greenらは認知機能が社会機能と関連することを述べており、働くうえで必要かつ重要な機能である。今回、言語性記憶と遂行機能、総合得点の改善は、就労場面での働きやすさにつながると考える。また認知機能リハの効果の一つにメタ認知の促進が挙げられる。本症例でも認知機能リハや心理社会的プログラムを通して、自分の得意・不得意な面が明確になり、自己理解を深める機会となった。このことは、面接で自分のことを伝えたり、就労場面で配慮を求める際や、強みを生かして働こうとする際に役立つと考える。 就労において、Beckerらは本人の希望を優先し、ストレングス視点で支援を行うIPS(Individual Placement and Support)が有効であるとしている。本症例においても希望を第一に考え、看護資格というストレングスを生かした個別支援が行えた。さらに就職後も定期的なフォローを行ったことで、本人の仕事への不安の軽減や職場の本人理解が図れ、就労継続につながっていると考える。【倫理的配慮,説明と同意】なお、報告に際し十分な説明を行い、本人の同意を得た。
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2016.0_179