高齢大腿骨近位部骨折患者のポリファーマシーの層別化と、入院時血清アルブミン値と退院時歩行自立度との関連

【目的】 大腿骨近位部骨折(Hip Fracture, HF)患者における入院時の血清アルブミン値(Alb値)の低下は, 退院時の自立歩行の阻害因子であると指摘されている. 一方, ポリファーマシーの状態にある高齢者には, 基礎疾患による炎症促進状態が存在することが示唆されている. 炎症はAlb値を低下させるため, 高齢HF患者におけるポリファーマシーはAlb値を修飾し, 退院時の歩行能力にも影響している可能性がある. 本研究の目的は, 高齢HF患者におけるAlb値と急性期病院退院時の歩行自立度(退院時歩行自立度)との関連を, ポリファーマシーの有無や程度によって層別化して検討することである....

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Published inKyushu physical therapist Congress Vol. 2024; p. 117
Main Authors 小宮, 大輔, 水上, 健太, 岩井, 宏治, 江郷, 功起
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2024
Kyushu Physical Therapy Association
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2024.0_117_4

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Summary:【目的】 大腿骨近位部骨折(Hip Fracture, HF)患者における入院時の血清アルブミン値(Alb値)の低下は, 退院時の自立歩行の阻害因子であると指摘されている. 一方, ポリファーマシーの状態にある高齢者には, 基礎疾患による炎症促進状態が存在することが示唆されている. 炎症はAlb値を低下させるため, 高齢HF患者におけるポリファーマシーはAlb値を修飾し, 退院時の歩行能力にも影響している可能性がある. 本研究の目的は, 高齢HF患者におけるAlb値と急性期病院退院時の歩行自立度(退院時歩行自立度)との関連を, ポリファーマシーの有無や程度によって層別化して検討することである. 【方法】 2017年4月から2023年8月までに手術を受けた75歳以上のHF患者(n=243)を対象とした. 電子カルテより人口統計学的情報, 医学的情報などのベースライン特性を後方視的に抽出し, 退院時歩行自立度との関連を検討した. 退院時歩行自立度はFunctional Ambulation Categories(以下, FAC)で判定し, ポリファーマシーを6剤以上, ハイパーポリファーマシーを10剤以上の内服薬の使用と定義した. まず, Alb値が本研究対象者全体の退院時歩行自立度に関連しているかどうかを確認するため, 退院時FAC3以上を従属変数に, ベースライン特性を独立変数にして多重ロジスティック回帰分析を行った. 抽出された独立変数に対してROC 曲線分析を行い, AUCとカットオフ値を求め, これらの適合性も評価した. なお, 独立変数のうち「薬剤数」と「ポリファーマシー」の多重共線性を考慮し, どちらか一方を投入した2つのモデル(「薬剤数」を投入したモデル1-a, 「ポリファーマシー」を投入したモデル1-b)を作成した. 次に, ポリファーマシーおよびハイパーポリファーマシーの状態にあるHF患者におけるAlb値の影響を検討するため, 対象をポリファーマシー群(n=173, モデル2), ハイパーポリファーマシー群(n=73, モデル3), および非ポリファーマシー群(n=70, モデル4)の3つのグループに層別化し, それぞれをモデル1-a, 1-bと同様の手順で分析した. 統計分析にはEZRを使用し, 有意水準をp=0.05に設定した. 【結果】 モデル1-a, 1-bではAlb値が抽出され, 本研究対象者全体においても退院時歩行自立度に関連していた(モデル1-a: OR 1.951 95%CI 1.166-3.343 p<0.05, モデル1-b: OR 2.034 95%CI 1.223-3.469 p<0.01). 続いて, モデル2と3においてもAlb値が抽出された(モデル2: OR 2.489 95%CI 1.348-4.8 p<0.01, モデル3: OR 3.587 95%CI 1.308-11.537 p<0.05). これらの4つのモデルの退院時FAC3以上を判別するAUCは0.622-0.67, Alb値のカットオフ値は3.35-3.55g/dLであった. また, カットオフ値の適合性は感度61.8-86.2%, 的中精度59.3-65.8%でモデル3で最も高く, 特異度は52.3-57.4%でモデル1-a, 1-bで最も高かった. モデル4ではAlb値は抽出されなかった. 【考察】 ポリファーマシーの状態にある高齢HF患者のAlb値は, 基礎疾患の多さに影響され, 相対的に低下していた可能性がある. Alb値は手術侵襲によってさらに低下し, 機能回復に影響したと考えられる. 【結語】 Alb値はポリファーマシーの状態にある高齢HF患者において退院時歩行自立度を鋭敏に予測する. 特に受傷前の内服薬が多いほどAlb値の評価が重要である. 【倫理的配慮】本研究は地方独立行政法人大牟田市立病院倫理委員会の承認(承認番号: No.2324)を得たうえで実施された. また, ヘルシンキ宣言に基づきデータは匿名化され, 個人情報の保護に配慮した.
Bibliography:O17-3
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2024.0_117_4